電子出版のデスクトップ27

 段組という課題


 画面上でどうしたら読みやすく文章を表示出来るかという話をこの連載でずいぶん書いてきたが、実はひとつ触れずに逃げている話題がある。それは「段組」である。
 T-Timeという電子書籍ビュアにはたいへん面白い機能がある。それは自動的に段組を行ってくれる機能である。この機能はたいへん気に入っている。
 T-Timeではユーザーが文章を自分にあった体裁に変更して読むことができる。ウィンドウ自体の大きさも自由だし、文字の大きさも自由だ。それに応じてT-Timeが自動的にページを組み上げてくれる。ウィンドウを大きくしたり、フォントを小さくしたりすると、1行の字数が多くなってくる。字数がある一定の限界以上に増えると、組み方が自動的に2段組などに変更されるのである。
 紙の本、特に判型の大きい雑誌などでは2段組や3段組が多く使われている。これは単なる見栄え上のデザインではなく、読むという機能と深く係わっている。
 判型が大きくなると1行の長さは当然長くなる。行が長過ぎると目で行を追うことは難しくなってくる。つまり行の長さと可読性は反比例するというわけだ。
 一方で大きな判型を使い、全体の一覧性を高めながら、その中に納める文字については段組をすることで可読性を犠牲にしない。段組というものはなかなか優れた発明品なのである。
 この手法、電子出版でもぜひ使いたいが、T-Time以外ではなかなかお目にかかれない。その理由のひとつがスクロールとの相性の悪さだろう。
 T-Timeはページ単位での組版を行う。したがって段組を実現しても何の問題もないのだが、スクロールが前提の画面組版、たとえばWebのブラウザなどだとことは複雑である。
 スクロール画面を分析的に表現すると、横組の場合、ウィンドウの横方向の幅は行が自動的に折り返す限定的な幅であり、縦方向は文書が続く限り無限に伸びている画面と言える。
 さて、これが2段組みとなるとどうなるか。横方向の2分の1弱が行を折り返す幅となる。ここまでは良い。ところが縦方向を無限に続くものとしたら、永遠に段を折り返すことが出来なくなる。つまり段組は不可能である。
 そこで、縦方向のウィンドウの幅を段の折り返す幅として限定的に使用し、横方向に無限にスクロールさせれば良いという案が出てくる。これなら段組は可能となる。ところが段組をしたとたんにスクロール方向が縦横変化してしまう。
 横組みの場合なら通常の下向きスクロールが、段組では右向きに、縦組みなら左向きから下へと変化が起こる。これは不便極まりないだろう。
 以前の回に実用的な書籍では固定的な幅のページは不便、スクロールのほうが良いと書いたが、段組という優れものを利用するには、画面上でも固定的ページ枠という組み方を利用した方が無難そうである。
 もちろんスクロールを前提とする文書でも囲み記事などでは段組を実現することは出来るし、ある程度の長さのスクロールページなら、適当なところで段を折り返すことで段組を作ることも可能だろう。でも基本的に相性が悪い。
 スクロール派の私としては、これは残念な結論だ。今後、画面組版の経験が蓄積されることによって段組に匹敵する一覧性・可読性とスクロールが両立するような組版様式が出来ることに期待をしたい。
『情報管理』Vol.44 No.5 August 2001 より転載
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