Macintosh
日本語を検索するにはこんなに苦労があると、つらつら日本語の悪口を書いてきた。
英文は空白が単語の間に入っておりキーワードの切り出しや検索は楽といわれている。英語は検索に向いた言語で、日本語は論理的ではないというお馴染みの日本語劣等論も出てきそうそうだが、実際の英文の検索はどんな具合なのだろうか?
私は英語が苦手である。学校時代は赤点の常習犯だったし、幸い仕事でも英文のキーワードには縁が遠かった。そこで英和辞書などでキーワードを設定している友人に様子を聞いてみた。
「たしかに日本語より楽という面もあるんだけどねぇ…」と友人は前置きして、やおら「マッキントッシュの綴りを書ける」という。
そういえばiMacがやたら売れているなぁと思いながら「Macintosh」と書く。すると「次に英和辞典でMacを引いて」。やれやれ先生みたいだなぁ、Macのスペルなんか間違えないよと英和辞典を引くと、同じmacでもいろいろな意味があるようだ。
接頭語としてのMac-はスコットランド系またはアイルランド系の人名(姓)につく接頭語で、「…の息子」という意味らしい。例としてMacDonald、McMillanが載っていた。マクドナルドはドナルドさんの息子という意味だったんだぁ。
男性の名前としてのMacもある。知らない男に対する呼び掛けで「ねえ君」というのを「Hey, Mac.」というらしい。英国ではスコットランド人という意味になる。フムフムと読んでいくと「mackintosh」の略、という記述に出会った。
おや!このマッキントッシュには「k」がついているではないか。商品名なので特別なのかとアップルコンピュータのパソコン「Macintosh」を引いてみる。たしかに「macintosh」も単語として載っている。しかしここでも「mackintosh」を見よとなる。それ以外にも「mack」という単語も同じ「mackintosh」を参照していることを発見した。おまけに「Mc-」という「Mac-」と同義の接頭語もある。この例にはMcDonaldとa抜きのドナルドさんの息子が出てくる。
こうなるとどうやら
mc≒mac≒mack、macintosh≒mackintosh、
MacDonald≒McDonald
という式が成り立つようである。
ずいぶん前に英語の単語1つは日本語の漢字1字と同じ働きをする、という説を聞いたことがある。アルファベット圏の人はアルファベット1文字1文字を認識するのではなく単語1つを全体として認識している、日本人が漢字の1画1画を認識しないで全体の形を認識しているのと同じだという話だった。
とするならば MacintoshとMackintosh、MacDonaldとMcDonaldこれは日本語の世界でいう異体字そのものではないか?英語にも斎藤・斉藤・齋藤・齊藤さん問題や渡辺・渡邊・渡邉さん問題があるということになる。異体字は検索の敵である。検索における異体字問題は日米英共同の課題であるらしい。
ところで問題の「mackintosh」。語釈はレインコート、防水生地となっている。パソコンが日常生活の中で使われると事故も多い。キーボードにコーヒーをかけてベトベトボードにした経験をお持ちの方もいる。モバイルを標榜する小型のパソコン。掛け声とはうらはらにアウトドアの基本、防水構造になっているものは見当たらない。
せめてマッキントッシュだけでも名前どおりに防水構造にして欲しいものだ。
『情報管理』Vol.41 No.11 Feb. 1999 より転載