キーワード設定の現場から(20)

括弧は便利?不便?

 残暑お見舞い申し上げます。根が不精者なので暑中見舞いは出さない。暑中見舞いをもらってあわてて残暑見舞いを書く。そんな私でも年賀状だけは頑張って書く。数十年も年賀状でのみお付き合いという人もいる。昔好きだった人からもらった年賀状。名前の横に丸括弧が添えられて“(旧姓××)”という文字が……。そんなしみじみとした思いにふけった経験を持つ御仁もおられるかと思う。
 さて、今回はこの丸括弧の話だ。ある用語辞典の検索を試していて、絶対に存在する用語がどうしても引けないという現象に出会った。
 その用語は「アイドマの原則」という広告の原則を表した用語だ。「アイドマ」とは
attention、interest、desire、memory、action のそれぞれ頭文字をとった用語だから「AIDMAの原則」かも知れないと再度検索し直してみてもやはりだめ。本文を総なめして調べてみたらその用語は次のように書かれていた。
 「AIDMA(アイドマ)の原則」
 人間が読めば括弧内は読みだと、たやすく判断できるが、コンピュータさんは生真面目に括弧込みで調査して「ありませんよ」と報告してくれたわけである。
 機械的に「(アイドマ)」を括弧ごとをとってしまって「AIDMAの原則」とすればとりあえず問題はなくなるが、それでは「アイドマの原則」が消えてなくなってしまう。
 同じようなものに括弧ルビと俗に呼ばれるものもある。読みを活字の横にルビ文字で振るのではなく( )内に記述する方法だ。たとえば
 「束明神(つかみょうじん)古墳」
など記述する。これは辞書や新聞などではお馴染みの表記法だ。
 これなどは単純に括弧内をとればまあまあ合格点はもらえそうだ。
 もっと調べていくと読みを記述するのではなく本来の漢字を括弧内に書く場合もある。たとえば「ぐ(虞)犯少年」といった例もあった。特に官庁関係の用語では使える漢字を一定に制限しているためにこの手が多い。
 一時マスコミを賑わした「超伝導」という言葉。「超電導」なのか「超伝導」なのか表記法がいろいろある。こういった語を丸括弧を使って
 「超伝(電)導」
と表記したりする。うまく表記するものだと感心するが検索する段にはやはりうまくない。
 今までの例は括弧内の文字で置き換える例だが
 「リフレ(ーション)論」
 「自治体(版)ODA」
といった表記はどうだろうか。これは括弧内の文字が省略可能という意味だろうから、今までのように置き換え処理して「ーション論」とか「版ODA」などという奇妙なキーワードを登場させてはいけない。括弧内を取ったり付けたりして
 「リフレーション論」「リフレ論」
 「自治体版ODA」「自治体ODA」
とすることが必要になってくる。
 いろいろ( )の使用事例を調べていたら
 「減(無)化学肥料(農薬)栽培」
なる表記が登場。これは
 「減化学肥料栽培」「無化学肥料栽培」
 「減農薬栽培」「無農薬栽培」
と理解すれば良いのかどうか。ここまで来ると判じ物に近い。人間の頭もこんがらかってしまう。
 最後の例は極端な例だが、丸括弧ひとつを活用して表記の工夫がさまざまになされている。たいしたものだと感心してしまうが、検索キーワードを設定する側からは泣かされる表記である。

『情報管理』Vol.41 No.10 Jan. 1999 より転載


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