2023年12月8日 大原ケイ氏: 米国出版動向 2023

2023.12.04

・コロナ後の米出版社の巻き返し
2020年春のパンデミックの際は、書店は営業停止を命じられ、著者のツアーは軒並みキャンセル、刊行時のキャンペーンを見合わせるなどして、出版社側が思うように本を売ることができなかった。パンデミック中はオンラインでの注文、Eブック、TikTokなどでの売上げに支えられて収益こそ伸びたが、2021年から今年にかけて出版社側が巻き返しを図っている。

・バーンズ&ノーブルのインディー化
2018年に英ウォーターストーンを、2019年に米バーンズ&ノーブルを買収したエリオット(投資会社)がドーントブックスのジェームズ・ドーントをCEOに据えて後のバーンズ&ノーブルは、仕入れの仕方から、店舗の床面積縮小など、インディペンデント寄りの方針に切り替え、パンデミック後は店舗数を増やすなど再成長している。

・禁書の動きと若者と大統領選挙
来年の大統領選に向けて、トランプ率いる共和党支持者は超保守的な草の根運動で、地元の図書館や学校図書館で、LGBTQや黒人奴隷の歴史を描いた本を禁書にする動きに出ている。これに対する出版社や図書館、そして若年層のレジスタンスとも言える動きもあり、出版の未来は誰を大統領に選ぶかにかかっているとも言える。

・AIをはじめとする最新テクノロジーは出版業界の救世主ではない
ChatGPTの親会社Open AIのサム・オルトマンが解任、マイクロソフト移籍、そして再雇用という慌ただしい騒動の中、出版社はAIと表現者の権利について慎重にならなければならない。これまでもブロックチェーンを使ったNFT、DeepfakeによるCGI、ニューラルネットワークを使ったAI翻訳のDeepLなどを持て囃して利得はあるのか? 出版に関わる人間がまず考えなければ何かを考えたい。

・嘘を書いた著者を訴追するのが米出版社
2021年1月6日に起きたトランプ支持者による国会議事堂襲撃事件の際に、首席補佐官だったマイク・メドウズは退任後、その年の暮れに自伝を上梓したが、その後、ジョージア州で選挙介入を行ったとして起訴され、現在は米司法省の連邦裁判で参考人として協力しているとされている。その証言内容が本に書かれたものと食い違っている、虚実を出版させられたとして出版社がメドウズを訴えた。このように裁判で白黒の決着をつけるのがアメリカのやり方。

講演資料 JEPA2023Ohara
講演映像 https://www.youtube.com/watch?v=AuPMPcTXSUU

■講師 大原ケイ 氏
東京ベースの文芸エージェント。日本の著作品を欧米マーケットに売り込むべく孤軍奮闘中。
りんがる aka 大原ケイ https://note.com/lingualina
HON.jpニュースブログ https://hon.jp/news/1.0/0/author/lingual

 
■開催概要
日時:2023年12月8日(金) 16時~17時半
料金:どなたでも無料
会場:オンライン Youtube Live(定員ナシ)またはZoom(100名)
主催:日本電子出版協会(JEPA)