本年大きな著作権法の改正が行われ、柔軟な権利制限規定が導入されます(平成31年1月1日施行)。今回の「JEPA著作権セミナー」では、松田政行弁護士が改正の概要を解説するとともに、電子出版業務に関する影響、及び新規ビジネスのチャンスについて検討します。さらに、改正著作権法の次のようなポイントについて解説していただきました。
20180725Google Booksスニペット表示について
(1)30条の4
① 著作物の利用に係る技術開発、実用化の試験のための利用
② 電子計算機による情報解析のための複製等
③ サイバーセキュリティ確保のためのソフトウェアの調査解析
④ ①~③と同様のコンセプトに基づく利用として、AI開発のためのディープラーニングによる
解析や、リバース・エンジニアリングなど
(2)47条の4
⑤ 電子計算機におけるキャッシュのための複製
⑥ サーバー管理者による送信障害防止のための複製
⑦ ネットワークでの情報提供準備に必要な情報処理のための複製等
⑧ 複製機器の保守・修理又は交換のための一時的複製等
⑨ サーバ-の滅失等に備えたバックアップのための複製
⑩ ⑤~⑨と同様のコンセプトとして、当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に
行うた目の利用や、当該著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態の回復・維持
のための利用
(3)47条の5
⑪ 所在検索サービス
⑫ 情報解析サービス
⑬ ⑪及び⑫のほか、電子計算機による情報処理により新たな知見・情報を創出する行為であって
国民生活の利用に寄与するものとして政令で定めるもの
この概要を解説するとともに、電子出版業務に関する影響、及び新規ビジネスのチャンスを検討する。
2 ソフトローによる新秩序
(1)ソフトロー基本報告
この改正に伴い政府、国会、文化審議会著作権分科会は、柔軟な権利制限規定の導入に当たっては、 ガイドラインを策定するなどの方法を講じることが必要であるという意見を示している。柔軟な権利制限規定の適用限界は司法判断によるとしても、ある程度、新規ビジネスを生じさせる程度に予見性 可能性を示すことが求められているということである。文化庁は、CRIC内に委員会を設けこの調 査研究に着手した。本年3月『著作権分野におけるソフトローに関する調査研究報告書』が公表されている。ガイドラインをソフトローによって形成しようという意向がみられる。
この解説を試みる。
(2)書籍所在情報検索サービスの適法性の限界
文化庁は、CRIC内委員会において、さらに具体的なソフトローの策定を検討することになる。書籍所在情報を検索する目的で書籍データベースを構築することまで許されるところ(前掲⑪)、この検索結果の出力(複製、翻案)に関する指針が求められるからである。この方向性の解説を試み ることとして、米国Google Books裁判で示された連邦高裁が示す許容範囲を検討する(参考文献 著作権政策フォーラム「柔軟な権利制限規定として導入される書籍所在情報検索サービスの適法性の限界ーGoogle Booksにおけるスニペット等表示を検証する」NBL1119号44頁)。
(3)TV放送番組所在検索サービスの適法性の限界
前記⑪ 所在検索サービスに関する柔軟な権利制限規定は、TV放送番組所在検索サービスにも及ぶ可能性がある。さらには検索テレビの要請に応えられるかもしれない。新規ビジネスの限界を検討する。