『Google Books裁判の総括と日本のナショナルアーカイブ戦略』
米国Google に知の独占を許して良いのか !
世界のありようは地政学的支配から情報学的支配に移行する。
日本の芸術・文化、科学・技術、歴史認識、安全保障……は、国家単位のナショナルアーカイブの構築に掛かっているというべきである。
青山学院大学法科大学院客員教授弁護士 松田政行
参考資料:拡大集中許諾制度に関する調査研究報告書
Googleは、2003年12月に、大学と公共の図書館から資料の提供を受けて、図書館資料のデジタル化を行うことを公表した。資料を提供する図書館は、Googleからデータの提供を受けて、図書館サービスの情報化に利用できるということになり、Googleは、図書館資料の存在情報に関するスニペット表示を公衆に提供するというものであった。「Googleの使命」である全世界の情報のデジタル化の一環ということになる。
これに対し、全米作家組合らは、2005年9月にGoogle Books裁判を提起し、11年に渡る裁判が継続した。2015年10月控訴審判決、2016年4月に最高裁の不受理決定に至りこの裁判は終了した。
2009年2月25日ニューズウィーク日本版に和解契約書が公表されて日本の著作者・出版社において大騒動が起きたことは記憶にあるところであろう。裁判の中心論点は上記の図書館資料のデジタル化と存在情報の公衆提供にフェアユースが適用になるかではあったが(控訴審適用肯定)、地裁段階の殆どの期間はさらなるコンテンツの商用利用を含むクラスアクション和解の承認手続きに要していたということができる。さすがに全世界・全書籍を対象にするという和解案は仏・独などの海外からの反発があり、米国内でも著作権法上あるいは反トラスト法上の違反を生じるという意見があって、連邦地裁はこれを許容しなかった。
しかし、Google Booksのナショナルアーカイブ戦略は、これにとどまる留まるものではないであろう。Google は第2次Google Books裁判によってもナショナルアーカイブの商用利用を展開しようとしているというのが講師の弁護士松田政行の読みである。今般のJEPAセミナーにおいて、Google Booksの裁判の全経緯を総括する。講師は、当協会の顧問であり、長年文化庁における著作権法の審議会委員を担当し、日本における立法政策の第一人者である。Google Books裁判と日本における和解告知によるGoogle の戦略とこれに対する日本の作家、出版関係団体等の対応にも関与し詳しい。
Google Books裁判11年間のフォローは、今後のGoogle の戦略を読むうえで重要であり、日本のナショナルアーカイブ構築に重要な示唆を与える。
Google Books裁判における和解承認手続きにおいて示された米国における多くの議論は、ナショナルアーカイブを構築(特に商用利用)する上で重要な諸点を含んでいる。講師は、Google Books裁判を日本の国立国会図書館によるナショナルアーカイブの構築と対比して論じる。日本は2009年の著作権法の改正によって、米国Google Booksとほぼ同等のナショナルアーカイブ構築の過程にあるという見解であり、日米は、ともにナショナルアーカイブの商用利用の段階を向かえるだろうという。近未来のナショナルアーカイブを大胆に予想する。