データ駆動型科学とオープンサイエンス時代の電子出版とは

2025.02.03

日立コンサルティング 岡山 将也

 現代の研究において、データ管理と電子出版の重要性が急速に高まっています。データ駆動型科学やオープンサイエンスが進展する中、これらをいかに活用するかが研究成果の社会的影響を左右すると考えます。以下では、電子出版とデータ管理が融合する最新動向とその重要性について持論を述べたいと思います。

1. データが繋ぐ新たな知のエコシステムとしての電子出版
 電子出版は、紙媒体を超えた情報流通の手段として発展し、学術分野では迅速な情報共有を可能にして研究成果の可視性を大幅に向上させています。しかし論文の公表だけでは研究の再現性確保は不十分であり、データの共有が必要不可欠です。電子出版の一つである電子ジャーナルは、学術研究を対象とした定期刊行物として重要な役割を果たしています。
 最近では、論文の公開だけでなく、研究データや解析コードを含む補足情報を提供することで、研究成果の透明性と再現性を向上させています。さらに電子ジャーナルではインタラクティブなデータの可視化や動的データとの連携など、電子出版技術を活用した新たな知のエコシステムの構築が期待されます。
 文部科学省の「オープンアクセス加速化事業」により、論文と研究データをセットで公開する動きが進んでおり、データの再利用を促進して、新たな研究やイノベーションを生み出す基盤を築いています。

2. オープンサイエンス時代のデータ管理
 オープンサイエンスは、研究プロセスや成果を広く公開し、誰でもアクセス可能にすることを目指す理念です。この流れの中で、研究データ管理の重要性はますます高まっています。特に、以下のデータの標準化とデータの信頼性の確保の2点は、オープンサイエンスを進める上で重要な要素と考えています。

・共有可能な基盤づくりとしてのデータ標準化
 研究データを効果的に共有するためには、フォーマットや構造の標準化が欠かせません。特に、メタデータの標準化は、データの検索性や相互運用性を大幅に向上させる重要な要素です。標準化されたメタデータスキーマの普及により、異なるプラットフォームや分野間でのデータ共有がスムーズに行えるようになります。
 たとえば、Dublin CoreやDataCiteといった国際的に認知されたメタデータスキーマは、研究データの効率的な管理と再利用を支援する鍵となっています。研究データは多様な形式で存在し、それぞれの分野ごとに異なる標準が用いられることが一般的です。この多様性がデータ共有を難しくしている一方で、標準化されたフォーマットやメタデータスキーマの採用が進むことで、データ検索性や相互運用性が向上すると考えます。

・データの信頼性の確保
 データの信頼性を確保し、透明性を高めることは、再現可能な研究の基盤となります。これには、データの出所や作成過程を明確にすることが必要です。さらに、データ品質を担保するためには、データの完全性、一貫性、正確性を保証する仕組みが求められます。
 たとえば、データクレンジング、データ補完、品質チェックのプロセスを標準化など、それらを公開することで、他者による評価や再利用が容易になると考えます。電子ジャーナルのプラットフォームでは、DOI(デジタルオブジェクト識別子)を通じてデータセットを一意に特定する仕組みが広まりつつあり、これに加えデータ品質指標を提示する取り組みも注目されています※。
※データ連携基盤を通して提供されるデータの品質管理ガイドブック、内閣府地方創生推進事務局、2023年

3. 電子出版とデータ管理の融合による新たな可能性
 電子出版(電子ジャーナル)では、論文にデータセットや解析コードのリンクを組み込むことで研究成果の効率的な取得を可能にすることで、他の研究者がデータを再利用しやすくなり、研究の再現性が高まると考えられます。
 また、これらの取り組みは、研究内容の理解をより深めることが可能になり、学術コミュニケーションの形を進化させたり、研究の正確性や研究公正にも貢献すると考えています。電子出版とデータ管理の連携は、学術界に新たな潮流をもたらし、この融合を進めることで研究の透明性や効率性が向上して、新たな知の創造が促進されると考えます。メタデータの自動生成エンジンやブロックチェーン技術を用いたデータ改ざん防止方法など新しい技術を取り入れることで、より一層オープンサイエンスを加速することができると考えています。