出版社の生成AI活用

2024.07.01

コスモピア 佐野悠介

 前月の鷹野さんと同様、私も今年度からJEPAの理事を拝命しまして、キーパーソン・メッセージに寄稿させていただけることになりました。
 今年31歳でまだペーペーも良いところの私が何を語れるんだというところはありますが、「語学・ゲーム・生成AI」をキーワードに「出版業界こうなっていくといいな」というのをつらつらと書いてみたいと思います。

語学出版社としての近況

 まず弊社コスモピア株式会社は、今年で創業22年を迎える語学系出版社です。出版物としては隔月誌『多聴多読マガジン』や英語を中心とした語学書(最近だと『決定版 英語スピーキング100本ノック』(光藤京子・著『AIフル活用!英語発信力トレーニング』(門田修平・著)など)を刊行しています。また近年は英語の本読み放題サービス「コスモピア・eステーション」を個人・法人向けに販売しています。

 あまり自社商品紹介に字数を割きすぎると「宣伝は控えめに!」と怒られそうなのでここまでにしておきますが、英語をテーマに様々な本を出している出版社であり、小さな会社の割にはそれなりにデジタル技術を事業に活用してきている方だと思います。
 また私自身が前職でアプリ会社に勤めており、オンラインサービスの運用や業務用ツールの開発を行っていたこともあり、デジタル技術の業務活用・DX推進も積極期に行っています。

 そんな弊社ですが、近年の英語学習市場においては紙の書籍は大苦戦。本を買う人口の減少も大きいと思いますが、それ以上に英語学習は本を中心とした「知識獲得」から、Duolingoやシャドテンといったアプリを中心とした「学習体験」に市場の中心が移ってきています。システム開発力の弱い弊社はそこへの適応ができず、このままでは出版部門は危ういのではないか……といったところに、ChatGPTをはじめとした生成AIサービスが次々と登場してきました――。

ゲームの力

 さて、生成AIを活用したビジネス展開について触れる前に私の趣味の話を一つ。
 私は最近の若者(まだ!)よろしくゲーム大好きな人間です。スマホでポチポチするのも好きですし据え置き機でピコピコするのも大好きです。先日発売されたフロム・ソフトウェア社のゲーム『ELDEN RING Shadow of the Erdtree Edition』を絶賛攻略中です。また近年市場を広げつつあるゲーミングUMPCというのも買いまして、Nintendo Switchの中身がパソコンになったようなそれがあると、家の外でも気軽にパソコンゲームができて大変便利です。もちろんWindows OSが入っているので、Bluetoothでキーボード・マウスを繋げばパソコンとして作業にも使えます…………

 と、延々管を巻けるくらいにはゲームが好きでして、子どもの時にはゲームクリエイターになろうとも思ってたほどです。が、大学生時代にゲームの「何が」好きなのかを問い直す機会があり、そこで一つ思い至ったのが「どんなものでも楽しめるようにする力」。私は子供時代は暗記するのが苦手で今でも47都道府県の県庁所在地があやふやなのですが、ゲームのことであればどんな言葉も大体覚えて、ややこしい地理・人間関係も攻略サイトを漁って頑張って覚えようとしたものです。また、勉強のことには30分も集中できなくても、ゲームであれば半日以上集中できます。それも楽しんで。

 運悪く私の在学時はゲームに関する人文・社会科学的研究をしている先生が周りにいなかったためその問いを掘り下げる機会は得られませんでしたが、数年前に家庭の都合で語学出版社、現在の弊社に転職した際に「このゲームの力を英語学習に活かせないか」ということを考えるようになりました。

 しかしどうしたら今の会社でそのビジネスを成立させられるのか? 弊社はあくまで出版社であり、システムの開発・運用には一定の制限がつきまといます。出版社としての強みを活かしつつ、できれば会社が持つ20年の蓄積も活かしつつ、こういい感じにゲームの力を活かしたサービスを開発できないものか……と考えていたところに、生成AIが登場・急速に発展してきました。

出版社と生成AI

 生成AIは、創造性と柔軟性を兼ね備えているだけでなく、システム開発が苦手な人間でもある程度複雑なサービスを作りやすい点で素晴らしい技術だと感じます。もちろんその出力の前提となるデータの学習において様々な問題・議論が存在するのも十分承知しています。ですが、任意の情報をインプットして様々な形でアウトプットさせることができるのは、出版社としての強み・20年の蓄積を活かしつつ、英語学習をゲームとして楽しめるサービスの開発、リッチなグラフィックはなくても「英語を楽しく学べ、成長も時間できるサービス」の開発に強力に役立ちそうです。

 実際、昨年7月のビジネス研究委員会主催の茶話会ゼミ「ChatGPTを活用した英語教材の制作活用事例」にて、コンテンツデータからクイズを作成する過程をお見せしましたが、英文のテキストデータと日本語での指示文(プロンプト)を入力するだけで問題文・選択肢・解答を生成することができました。

 あれから1年が経過しましたが、ChatGPT-4oClaude 3など新しい生成AIモデル・サービスが登場して精度が上がっているほか、入力できるデータもpdfや画像など、テキスト以外のものに対応し始めています。権利関係を初めとした諸問題を解決すれば、既存のコンテンツ資産を活かした形でのサービス開発に、中小出版社でも取り組みやすくなっているのです。

 生成AIの世界はサービス開発のスピードが恐ろしく早いため、この原稿を書いている間にも新しいサービスがどんどん生まれています。6月28日にはGoogleから新しいモデルGemma 2がリリースされました(直前のバージョンが発表されたのはたった4カ月ほど前です)。最新の生成AI情報は英語が多くてついていけない? ならば是非是非、弊社の語学書・語学サービスの購入をご検討ください――。

 どんなサービスを作れるかは、生成AIに入力するデータとプロンプト次第。貴社でもぜひ、生成AIの活用に取り組んでみませんか?

※関連リンク
コスモピア株式会社
コスモピアAI研究室
 →生成AIの活用に関して日々様々な例を紹介しています。ぜひご覧ください。