ChatGPTが提示した「社会の構成員としての発想」

2024.01.04

JEPA会長(医学中央雑誌刊行会)  松田 真美

 明けましておめでとうございます。
 旧年中はJEPAの活動にご支援・ご協力を賜り、誠に有難うございました。

 昨年はなんといっても生成AI。Facebookに『ChatGPT登録してしまった。噂通りこれはヤバい』と投稿したのは2月6日のことでした。そして今「あの衝撃はなんだったのか」と振り返ると、もちろん私は ChatGPTの能力に驚愕したのですが、俯瞰してみると、世界中の億を数える『私』が突如として前人未踏の情報技術に直接触れて白目をむいているという状況そのものがワールドワイドな大事件であったと言えるでしょう。

 そこから一年間、本務である医学系論文データベースの制作・提供に関連し、また一個人としての興味においても、生成AIのことを考えない日はありませんでした。生成AIはなぜあんなことが出来るのか?生成AIをどう仕事に活かせば良いのか?AIはどこまで進化するのか―AGI(Artificial General Intelligence:汎用的人工知能)は実現するのか?等々。

 そして、JEPAのコミュニティには同様に悩み、その解を得るべく模索する多くの方々がおられることと想像します。
 それゆえ、下川副会長はじめ定例委員会の皆様のご尽力にて生成AIを様々な視点から解説する5つのオンラインセミナーを開催できたことをとても嬉しく感じています。
 一年前、セミナーのオンライン化によりリアル開催だった頃に比べ格段に視聴者が増え、Youtubeでアーカイブされている動画の平均視聴回数は約600回、1,000回を超える動画も10本を越える、とご報告しましたが、昨年の5回の生成AIに関する動画の平均視聴回数は約3,300回、最も多く視聴された野村直之氏による『ChatGPT時代のAI講座』の視聴回数は現時点で5,644回を数えています。

 また、会員限定の「茶話会ゼミ」企画『ChatGPTを活用した英語教材の制作活用事例』、また、池村聡弁護士による著作権セミナー『生成AI時代における出版・編集実務と著作権』もご好評を頂きました。

 もちろん生成AIだけではなく、教育ICT、学術情報、アクセシビリティ、標準化などをテーマとする多彩なオンラインセミナーを展開しました。
 また、広報委員会企画「JEPA委員会に入ろう!」では、委員長+1名へのインタビューにより、JEPAの実動部隊である各委員会の実際の姿をご紹介しています。JEPAサイトにてご覧頂き、ご興味を持たれた暁には委員会へのご参加をお考え頂けたら幸いです。

 最後に。この稿をまとめる過程にてChatGPTに下記投げてみました。
「私は日本の電子出版に関するコミュニティの会長です。出版は、生成AIの出現により、大きな変化が予想され、我々のコミュニティを構成する人々はそれに備えて考えたり行ったりすべきことがたくさんあります。そのようなことを、私は会長としての年始のあいさつ文として書く必要があります。1,000文字程度でその原稿案を作ってください。」

 そして瞬時に返ってきた一文、やはり生成AI有能だなあ、しかし普通過ぎて面白くはないのよねなど思いながら読み進めたのですが、最後に「おや?」となりました。
「生成AIにより新たな可能性が広がる一方、様々な課題がある」として4点の課題が挙げられるのですが、4点目、「社会的な責任;私たちは電子出版の一翼を担う存在として、社会的な責任を強く意識しましょう。技術の進展が社会に与える影響についても積極的に議論し、建設的な提言を行っていきます。」、この「社会の構成員としての発想」が出力されたのは、ChatGPTのトレーニングデータの多くが欧米の情報であることによるのではないでしょうか。日本人である私からは自然には出てこないコンセプトです。

 ですが、生成AIと言う既存の知識・スキルではとても扱い切れない未知のツールを適切に利用していくには、背伸びをしてこのような問題意識を持つことが意外に有効かも知れません。
 また、有効かどうかとの実利的な観点を離れ、「電子出版の一翼を担う存在として」「技術の進展が社会に与える影響についても積極的に議論し、建設的な提言」を行うべきなのは、言われてみればその通りであり、生成AIに限らず、JEPAとして忘れてはいけないことなのだ、とも改めて認識しました。

 ChatGPTに煽られハードルを上げてしまった感もありますが、本年が皆様とともに成長と変革に対応していく喜びに満ちた年となることを心より願っております。そして、より一層のご支援とご鞭撻を賜りますよう、伏してお願いを申し上げます。