文藝春秋の元社長であり編集者でもあった池島信平氏(1909年~1973年)は、編集者がすべきことを七箇条挙げている(『雑誌記者』中央公論社、1958年、「編集長の武芸十八般」より)。
一、編集者は企画を立てなければならない。
一、編集者は原稿をとらなければならない。
一、編集者は文章を書かなければならない。
一、編集者は校正をする。
一、編集者は座談会を司会しなければならない。
一、編集者は絵画と写真について相当な知識をもっていなければならない。
一、編集者は広告を作成しなければならない。
65年も前に書かれたとはいえ、編集者に求められる基本は現代も変わらず、肝に銘じて大切にしていきたいものである。
さて、時代とともに編集の道具や環境、掲載する媒体も様変わりし、DTP編集による紙本や電子書籍本の出版、ウェブサイトやSNS、ブログによる情報発信、PCやモバイル端末を対象としたマルチメディア商品の開発など、様々な展開を同時に行うことが当たり前になり、編集者にとって7つでは収まり切らなくなっていると日々の仕事を通して実感している。
その一つがここで触れられていない「読者と編集者」の関係だ。従来型の雑誌は、例えば読者からの投稿を紹介するページを設けることで、読者と編集者が共感し合える場をつくることができる。編集後記も同様。編集者の生の声を通してより身近な存在として感じてもらい、継続購読に繋がると考えられる。
一方、今はSNSやブログに感想や意見が自由に書き込まれ、瞬時に万人の知るところとなり、内容によっては編集者の意図に反して炎上することもある。また、メールによる問い合わせや意見はすぐに編集者に届くため、編集者自らが即返信しなければならない場合もある。
いずれにせよ、校了後や刊行後に一息入れる間もなく、SNSやブログの書き込みに気を配り、スピーディーで誠意のある対応が求められる時代なのである。
また、メディアの進化も影響が大きい。モバイル端末専用アプリによる電子書籍、特にオリジナルアプリを使って本や雑誌を配信する場合は、アプリの機能強化、操作方法の改善、OSのアップデート対応など、読者や利用者にとって、より満足度の高いサービスが実現できているか問われることになる。
これらに共通して言えることは、読者からのフィードバックが重要だということ。
七箇条が書かれた時代は、読者からの反応を即座に受け取れる手段がなかったこと、雑誌が編集者から読者へという一方向性のメディアという特性ゆえに、あえて挙げなかったのかもしれない。ただし、本書では読者を意識し大切にしている書きぶりが随所に見られるため、私の読み違いかもしれない。
今では刊行前後から多くのチャネルで情報の発信・受信が可能であり、編集者にとっても読者がより身近な存在となった。そのためフィードバックも得やすく、評価を数値化することも容易となった。結果的に読者と良好な関係を築き、作家のみならず編集者や出版社のファンコミュニティーがつくられる。するとそこから新しい企画が生まれ、売れ筋本となる好循環が生まれるという。
時代と共に変化する編集者の役割。いったんスタートすると息つく間もなく、刊行後もすべきことが満載の編集者。あらためて大変な時代にあることを考えさせられたしだいである。