クラウドと出版社

2021.05.01

大修館書店  番沢 仁識

 令和の学校教育──GIGAスクール構想は「Society5.0時代を生きる子供たちに相応しい、誰一人取り残すことのない公正に個別最適化され、創造性を育む学びを実現するため、『1人1台端末』と学校における高速通信ネットワークを整備する」趣旨の国家教育政策。これにより小中学生は一人一台の学習用端末を持つようになりました。後押しされて高校の端末整備も着々と準備が進んでいます。ネットワーク整備はパブリックククラウドの利用を前提としたものです。

 その結果、教科書出版社はパブリッククラウド上のサービスとしてデジタル教科書を準備する必要に迫られ、各社ともにこの3月まで対応に追われました。もちろんこれまでもホームページを作って、レンタルサーバーで運用してきた出版社は数多く存在します。しかしながらデジタルの商品をクラウドで運用となると、今後はクラウドコンピューティングサービスにおけるシステム構成やその費用などを考えていく必要があります。

 Iaas、Paas、Saas、AWS、Azure、GCP・・・こうした言葉を目にはしても、あくまでも遠くから部分的に関与する範囲で済むと思っていたのが、その仕組みをきちんと把握せねばならない状況へと進み始めています。Gmailなどを日々使っていれば、一ユーザとしてもこれらは決して遠い存在ではなかったはずなのですが。

 これからの商品企画では、紙で出すのか電子で出すのか、まずはここから検討を始めねばならなくなるでしょう。そのとき、本づくりの知識や、ePubのような電子書籍の知識に加えて、冗長化やバックアップまで含めたクラウドの構成を理解していなければ、優れたコストパフォーマンスを発揮する商品を生み出すことはできません。

 高齢を理由にデジタル案件を遠ざけてきた方々が少なからず存在するこの業界。いよいよその芸風は構造的に通用しなくなっていきそうです。ePubを遠ざけていたらいつの間にかクラウドコンピューティングを避けて通れなくなっちゃった、みたいな。ここ数年「妖精さん」というファンシー?な呼称が取り沙汰されています。アナログ最前線をやってたらいきなりデジタルティンカーベルになっちゃう。あながち悲観的とも言えずありそうなことに思えます。

 昨年年度末で還暦を迎えました。あと何年やっていることかはわかりませんが、いる限りは雛壇に居続けなくてはなりません。そうでなくても忍び寄る経年劣化による自らの冗長化に耐え、パフォーマンスの「冗長性」を確保していけますよう。この先のJEPA様のお導きにも多くを頼りつつ拝みつつ拙稿を終えることといたします。