先の総会で理事の松田真美さんがJEPAの新しい会長に選出され就任されました。松田さん、おめでとうございます。松田さんの一層のご活躍とJEPAがさらなる発展をとげ、社会への貢献をはたされるようエールをお送りします。また先任の金原俊さんには2期4年間のお勤めご苦労さまでした。
さて、JEPAは今年創立35年を迎えることになります。そのほぼ全期間をJEPAとともに過ごした者のひとりとして自分史的な視点からJEPAを簡単に振り返ってみたいと思います。
わたしにとってのJEPAはまず良きパートナーとなる人々との出会いの機会を与えてくれるものでした。初代会長前田完治さんの、フォーマルな活動にとどまらず会員間の打ち解けた交流を大切にする、との思いもあって、多くの方々とJEPAでの活動を通じて親しくお付き合いをさせていただくことができました。JEPAなかりせば、Frankfurtの料理屋で初対面の方も交えて飲み会をすることもなかったでしょう。さらに、そうした交流は時に避けがたく向き合うことになる難局を乗り越えるのに力となる励まし合いの場でもあったことを忘れることはできません。
わたしの電子出版における編集者としての仕事上の役目は辞書の電子化と電子辞書に期待される充実した機能の実現、そして電子辞書の利活用・普及の促進、要するに売れる電子辞書を作ることにありましたが、売れる(はずの)電子辞書を作るという目的はこの間に、少なくとも技術的側面では、ほぼ達成されたと考えています。
適正なデータフォーマットの選択、効率的な標準化の試み、検索仕様の評価と取捨、その実装に向けた技術の獲得、インターネットへのプラットフォームの拡充、一方では公平な著作権処理ルールの確立など、次々に現れる課題は鋭意の仲間たちの努力を結集して解決されていきました。他社の編集者との意見交換から電子化を容易にする編集上のヒントを得たことも少なくありません。辞書の電子化、さらには書籍全般の電子化に資する技術革新について共に学び、成果に結びつけることにJEPAは大きな役割を果たしたと言えます。
こうして見てくると、JEPAという組織はある意味ではすでにその役割の大半を終えたと考えられなくもありません。しかしそうでしょうか。ひとつの例を考えてみます。紙か電子かの議論が盛んな時期もありましたが、つまるところ読書のスタイルは人さまざまです。ただ、個人の嗜好はさておき、社会的に見たとき、読者にその置かれた環境や境遇に左右されない読書の機会を提供するために電子出版は強力な手段になり得るものであり、図書館や学校がこうした要請の受け皿として有望な機関であることは明らかでしょう。
JEPAは早くからこの認識に立ち、電子図書館すなわち電子書籍の閲覧サービスを提供する図書館の実現を目指して電子図書館にかかわる諸問題の検討を専門の委員会を設けて進めてきました。しかし所期の目的の達成はいまだ道半ばにあります。わたしにはその主たる原因はこの検討が供給側として受容できる商業的に妥当な方策の探求に重点がおかれていたことにあると見えます。現状を打破するためには、検討の場に利用者の側に立つ人たちにレギュラーメンバーとして加わっていただき、こうした方々とのコミュニケーションを深めることにより、供給側だけでなく受容側が抱える問題点を掘り起こしそれらの解決策を探ることが必要と考えます。
コロナ禍の中、組織の活動を拡大することに困難を伴うことは容易に想像できます。ただちにということではなくても、中長期的視点に立ってJEPAの活動のテーマを一つひとつ検証し取り組んでいくことができればさいわいです。