新型コロナウイルスによって日常生活は大きく変わってしまったようだ。人と人は距離をとらなければならない、外出時はマスクをするようにする、頻繁に手洗いや手指消毒をする……など、今までの習慣を変えなければならないことが多い。
しかし、2011年3月11日の東日本大震災の後のような喪失感はないように思える。9年前の震災後は電気の利用が制限されていた。電車は間引き運転をして、夜には町のネオンが消え、計画停電も実施された。普及し始めたデジタルサイネージの電源が落とされ、まるでヨーロッパの街のように暗い新宿を目にしていた。
そうした節電の風潮も電力が確保されるとしだいに忘れられ、それまで以上に電力にあふれる生活が戻ってきた。新コロナウイルスは、元の生活にもどれない何かをもたらすのだろうか。
千年に一度の大震災から9年、百年に一度のパンデミックがやってきた。営業時間を引き伸ばし、行動範囲を拡大させるなど、時間と空間を密にしてビジネスに結びつける方法にストップがかかってしまった。18時で閉店するようになったスーパーマーケットを珍しく感じたかもしれないが、50年前はデパ地下だって夕方には閉まっていた。
スマホなど、カメラとマイクを装備して、通信機能が標準であるデバイスでは、もともとテレビ電話は可能だった。それがいままであまり使われなかったのは、生活習慣や文化の問題であったのだろう。いざ、会うことができなくなり、オンライン会議が実施されると意外にも便利であることがわかってしまった。
自分でお酒を用意して、オンラインで飲み会をやってみる……はたしてそれは楽しいのだろうか? 予測を超えて、それはなかなかおもしろかったのだ。これは新しい文化ということになる。非常事態宣言解除。これからもろもろ、どうなるのだろうか。興味津々な6月の始まりになる。
デジタルやネット、リモート関連のビジネスは伸びていくだろう。一方で、営業を再開した大型書店には何冊もの本を抱えた人びとがレジへと、間隔をあけて百メートルを超えるような列を作っていた。紙の本の魅力もまだ衰えていないようだ。
6月といえば、JEPA元会長の長谷川秀記さんが2017年に急逝した月でもある。90年代後半から21世紀のはじめにかけてのインターネット環境において、鉄塔趣味という新しい嗜好を開拓した人のひとりとして、長谷川さんはいまでもメディアやネットで語られる存在だ。
紙の時代には、雑誌として成り立つだけの部数が必要だとされていた趣味のメディア、それがブログの時代になって、誰でもが発信できるものになった。そのひとつが長谷川さんの「毎日送電線」であった。珍しい趣味の持ち主として、テレビ・ラジオに登場し、書籍『東京鉄塔』も上梓した。それを支える「同好の士」の存在も見えてきた。
今回の環境変化は、「新しい生活様式」などの掛け声を超える「新しい何か」を生み出すのだろうか。新しい何かが登場するのは、おそらくネットワーク空間なのだろう。