電子出版とは

2018.04.10

JEPA 会長/医学書院  金原 俊

 長年、「電子出版」事業に携わっており、現在はJEPA「日本電子出版協会」の会長も仰せつかっているが、最近、「電子出版」という言葉に違和感を覚えるようになってきた。

 JEPAが発足した電子出版の黎明期によく言われたのが、『電子出版には、「電子的な制作手法による電子出版(DTPなど)」と「電子媒体を活用した電子出版(CD-ROMなど)」の2種類がある』だ。前者の電子的な手法を用いた出版は、昨今、当たり前になりすぎて、とりたてて「電子出版」と呼ぶ必要もなくなったようである。『全てのテレビがカラーになったので「カラーテレビ」という言葉がなくなり、むしろ「白黒テレビ」という言葉が必要になった』の例え話のとおりだ。

 それでは後者の「媒体としての電子出版」はどうか? JEPA発足から30年経った今も相変わらず紙媒体がマジョリティなので、カラーテレビの例え話に従えば、今でも「電子出版」という言葉は必要だ。実際に出版界ではもう何十年も「電子出版を推進して出版不況を打開しよう」と電子化を進めているが、果たして本当にそうだろうか。

 例えば百科事典は世界的に紙媒体のコンテンツを用いた「電子出版」を模索したが、それが達成できないうちにWikipediaが世界的に電子百科事典のデフォルトになってしまい、「電子出版」は閉ざされた状態と言える。同様の状況は地図、グルメガイド、時刻表、などでも起きている。具体的には「Google Maps」「ぐるなび」、「〇〇路線」「Weblio」「goo辞典」などのサービスだが、それらはサービスであって「電子出版」とは呼ばれない。サービス主体が出版社でないことや、出版のコンテンツを元にしていないこともあるが、ユーザーにしてみれば、便利で正確な情報のサービスであれば、それは構わない。

 これをどう考えたら良いのだろうか。出版社にはコンテンツを集めて選択し、編集して表現する能力があり、それは電子でも必要と信じていた。出版社以外ではできないとすら思っていた。しかし、前述の中には、出版社の編集力もコンテンツも用いずに、良いサービスを提供しているサイトもある。Wikipediaもそのひとつだ。電子には電子に適した情報収集手段や編集手段が必要、ということかも知れない。電子出版として成功している漫画の配信においても、そもそも作家も違うし、著者報酬の考え方も違う。編集という概念すらない、ということのようである。

 どうやら、出版社が考えた「長年の出版の取材力や編集力で作ったコンテンツを電子で配信する」という構想自体に無理があるようだ。そうした作り手の論理ではなく、ユーザーの目線で、「どのようなサービスがどのようなビジネスモデルで(無料も含めて)必要か」を追い求めるべきであろう。電子出版が未だに出版においてマジョリティになれないのは、その視点が欠けていたからではないだろうか。

 それを推し進めると、ジャンルによっては「長年の出版社のノウハウやコンテンツは不要」という結論もあるかも知れない。「それくらいなら電子出版などやらない」「出版社のやることではない」と言うつぶやきが聞こえてきそうだが、出版社の使命は「求める人に的確な情報を提供する」ことであり、手法の問題ではないはずだ。その使命達成のためにも、よりよいサービスの構築をすべきであり、改めてそれを目指したいと思う。それは冒頭に述べた狭義の「電子出版」とは違うと思うが、出版の使命を踏まえて考えれば、それこそが真の意味での「電子出版」であろう。

 幸いJEPAは様々な業種の会員により構成されているので、狭義の「電子出版」にとらわれずに、真の意味の「電子出版」、即ち電子配信サービス構築を進められる。ぜひ、会員諸氏の協力によりそれを実現していきたいと思う。