日本電子出版協会(JEPA)は今年創立30周年です。おめでとうございます。
永田はちょっと遅れて1990年に社会人になりました。転職したり起業したりと何度か所属が変わっているのですが、それでもJEPAとのかかわりは途切れることなく、四半世紀のおつきあいになっています。
10月にプラットフォーム委員会委員長・下川氏と一緒に「JEPA30周年記念:私の電子出版、電子辞書」というセミナーを行います。永田の電子辞書とのかかわりを中心に、その歴史と発展についてお話しします。いい機会なのでエポックメイキングなデバイスをいくつかオークションサイトで入手しました。その中の1台、1981年製のSHARP「IQ-200」について。
見た目は普通の手帳型電卓です。アルファベットキーもありません、テンキーです。それではどうやって辞書を引くのか。実際にやってみます。
①電源スイッチを[切]→[計算]→[英和]とスライドさせます。
②[■□]ボタンを1回押すと「a」の文字が表示されます。もう1回押して「b」を表示させます。
③隣に[□■]ボタンがあるので、15回連打して2文字目を「o」まで切り替えていきます。液晶画面には「bo」と表示されています。
④ここで[▶]ボタンを押すと、「bo」で始まる単語が順次切り替え表示されていきます。「board」「boarding」「boast」「boat」…とキーを押すこと13回、目指す「book」が表示されました。
⑤最後に“翻訳”が割り振られている[=]キーを押します。「ホン,ヨヤクスル」と表示されました。ミッション終了。
正直、そこまでして電卓で辞書引きたかったのか?そもそも、当時IQ-200を買った人は、他人に自慢する以外に辞書機能を使っていたのか?と疑問が尽きません。
でもこれが、まぎれもなく現在の電子辞書の直系のご先祖さまです(正確には2年先行してIQ-3000という商品があります)。このIQ-200から35年、IC辞書、CD-ROM辞書、マルチメディアパソコンやガラパゴスケータイへのバンドル競争、インターネットでの検索サービス、そしてダウンロードアプリと電子辞書は進化と発展を続けてきました。収録単語数や収録コンテンツ数の増加だけではなく、検索機能・学習支援機能も格段の進化を遂げています。
さて現在。紙の辞書は売れない、電子辞書ビジネスにも翳りが見えてきた、と言われて久しい今日この頃です。JEPA設立当初、「マルチメディア」や「データベースCD-ROM」と共に「電子辞書」も電子出版を牽引する活力あるキーワードでした。ちょっとさびしい気もします。
ただ、見方をちょっとだけ変えてみれば、私たちはかつてないほど辞書を身近に備え、いつでも利用できる環境に身を置いていると言えます。学生・研究者にとってIC電子辞書はほぼ必需品と言っていいほど普及しています。オフィスでパソコンに向かう時、家庭でタブレットを使う時、電車の中でスマホを操作する時、その端末は辞書に繋がっています。ネット辞書サービスを利用することができるし、辞書アプリをダウンロードすることもできます。辞書がプリインストールされている機種もあります。あれ?これって30年前にJEPAが夢見た理想的な未来なのでは?(マネタイズの件はそっと横においといて) デジタル辞書は情報社会のインフラの一部にもうなってるんですね。
問:電子辞書の進化と発展はここで止まるのか。
答:そんなことはありません。
問:紙の辞書すらビッグデータや自動翻訳やAIに駆逐されるのか。
答:そんなこともありません(先に白旗あげれば別ですが)。
これからの(電子)辞書でできること、デジタル技術やネットワークと結びつくことで初めてできるようになること、まだまだやれることがたくさんあります(本当にあります!)。JEPAレファレンス委員会では、そんな話をしていきたいと思っています。30周年記念セミナーで電子辞書の歴史について話しますが、それで一旦ひと区切り。レファレンス委員会では“若手”編集者を中心にした、これからの(電子)辞書、未来のレファレンスについて議論するワークショップの開催を予定しています。若手編集者のみなさん、“若手”だと言い張る熱意のある準若手の方々のご参加を心よりお待ちしています。
そうそう、レファレンス委員会も前身の次世代辞書研究委員会を合わせて今年で10周年でした。JEPAもレファレンス委員会も、次の10年に向けて、前を向いてがんばりましょう。
以上