もう「電子書籍元年」はない

2015.06.02

翔泳社/JEPA 著作権委員会  清水 隆

 2015年の1月から改正著作権法が施行されました。今回の改正では、出版権設定の対象が電子書籍にも及ぶことに注目が集まりました。しかし、著作権法には「電子書籍」と言葉も「電子出版」ということがも記されていません。条文では、「電子計算機を用いてその映像面に文書又は図画として表示されるようにする方式により記録媒体に記録し…(中略)…複製物により頒布すること…(中略)…当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行うこと」と記して電子書籍を指しています。

 まあ、著作物を対象とした法律ですから、媒体や実現方法についてはごく一般化して表現されるのは当然かもしれません。

 今回の著作権法改正に先立って開催され、法改正の方向性を検討した文化審議会の著作権分科会出版関連小委員会報告書では、もう少しわかりやすく電子書籍について定義しています。「パソコン、携帯電話、専用端末等の機器を用いて読まれる電子化されたコンテンツを広く『電子書籍』と呼び、電子書籍の企画・編集から配信に至る行為をすることを『電子出版』と呼ぶこととする」。

 要は、PCやスマホなどに表示されるコンテンツは、形式や分量などに関わりなくすべて「電子書籍」ということになります。それでいいのだと思う。電子書籍だけでなく、一般的なWeb、ブログ、twitter、フェースブックなど、さまざまなコンテンツが入り乱れる現状では「電子書籍」を細かく定義することなどできないと考えます。

 そして、「電子」になったとたんに、コンテンツをお金に結びつける方法は、多種多様になります。DL販売、サブスクリプション、バンドルモデル、広告モデル、貸し出しなどなど……それらをまとめて市場規模を推し量ることは大変な作業になるでしょう。では、紙に対応する書籍というパッケージとしての電子出版はどれほどの規模になっているのだろうか。

 今年の初めにそんなことを考えていたとき、1月30日にアマゾンが、紙、Kindle、総合(紙+Kindle)にわけた2014年の出版社別の売り上げランキングを発表しました。アマゾンサイトのリリースは、もう期限切れになっていますが、ITmediaが記事にしているのでこちらで見ることができます。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1501/30/news117.html

 ここでは、紙版とKindle版、総合という3つの表のうち、総合のランキングをあげておきます。これには、紙順位とKindle順位も表示されています。

※総合ランキング表※

amazone_rank2014

 このランキングを見て、率直に電子書籍(ここではKindleだけですが)は十分に市場として成熟してきたのだなという感想をもちました。ご存知のように出版販売におけるアマゾンの存在は非常に大きなものです。その出版社別ランキングで、電子書籍(Kindle)の売り上げが「紙+電子」のランキングを変動させる要素となっていることがはっきりわかります。

 このランキングでは、売上高は公表されていませんが、「総合売り上げランキング」の紙、Kindle、総合の関係をみるとKindle本の売り上げが重要性を増していることがわかります。上位4社は、紙、Kindleともに順位が変わらないので、紙とKindleの関係を見るのに適しませんが、もう少し下に行くと、紙で36位の出版社はKindleで5位で、総合で18位になっています。逆に紙で9位であっても、Kindleの売り上げがほとんどないと、総合で13位に下がってしまいます。

 では、ランキングに載っている出版社のタイトル(商品数)は、どのくらいあるのでしょうか。これは、アマゾンで出版社名によって「本」や「Kindle」と分野を限って検索することでわかります。

 KADOKAWA、講談社、集英社、小学館という上位4社は、出版社名でアマゾンの「本」(紙)の検索で6万あまりから10数万というタイトル(商品)数が表示されます。「Kindle」に限っても1万数千から3万タイトルに近い数があがります。これは、電子書籍が読者にとって十分選択肢となる数だといっていいでしょう。

 また、Kindleの売り上げによって総合順位を上げている会社には、漫画やラノベなど、電子が得意とする分野以外の書籍を発行しているところもあることに気づきます。

 Kindleのタイトル数では、5位の出版社が6千弱、6位で1400余り、7位で約2300と、Kindleランキングに入っている出版社の多くが4桁の品ぞろえになっています。出版点数、売り上げともに、もはや電子書籍(ここではKindleだけですが)は出版社として重要な市場として認識せざるを得なくなっているのではないでしょうか。

 ひとつのランキングを見ての感想にすぎませんが、電子書籍は多くの出版点数が蓄積され、売り上げも紙と比べてもかなりの額に達しているようです。Kindle版がこれだけあるということは、ほかのフォーマットへの展開も進んでいることでしょう。

 JEPAでは、「電子書籍元年」といわれるたびに「何度め?」という声が聞こえてきました。もう「電子書籍元年」がやってくることはないでしょう。