新潮社 柴田 静也
スマートフォンの普及により、24時 間インターネットの接続可能になった今、人々の情報取得が劇的に変化している。言うなれば社会構造が変わったのだ。その影響を一番受けているのは、ター ゲットメディアの雑誌である。かつては、電車の中でいい大人がマンガ雑誌を読んでと揶揄されていたことが、すでに懐かしい。現在マンガであれ、何であれ電 車の中で雑誌を読んでいる人を見つけること自体難しい。雑誌の売上不振は、販売収入、広告収入は当然だが、その他に三つの出版インフラを直撃した。ひとつ は、大量生産であることでのパブリシティ効果、そして自ら次の財を生み出すサイクル機能を不全にした。新人をデビューさせたり、読者に目的以外のコンテン ツを注目させたりという、まさに雑多なものの同梱させ、広める機能が低下した。雑誌への注目が下がった結果、そこから生まれた書籍の売上不振へと負のスパ イラルが続くわけだ。
そんな中、クリス・アンダーソンの『フリー』(NHK出版)が出版されてから年、出版界にもいよいよ「フリーミアム」の到来かと「マンガボックス」(DeNA)や「コミコ」(NHNPlayArt) に代表される無料のマンガ配信サービスの登場だ。このビジネスモデルはいたってシンプルだ。配信では、読者に課金せずに、そこから生まれたコンテンツを紙 の書籍化、電子書籍化で収益をあげるモデルだ。そこだけ見ると従来の出版ビジネス、つまりマンガ雑誌は赤字でも、書籍とトータルで収益をあげるモデルと何 ら変わらない。ようは「見られて、読まれて、なんぼ」、未来への投資である。インターネットではそれは限りなくゼロに近づくということだ。広がれば広がる だけ、次の財でのパイも大きくなっているはずだ。先月あの巨大メディア「少年ジャンプ」(集英社)が、本誌の有料電子配信とともに過去作や新作の無料配信 サービス「ジャンプ+」を立ち上げたことからも伺いしれる。
ではインターネットの無料配信は、出版界の救世主たるか? 答えは<NOだ。 なぜならば前述した出版インフラ残り二つの解決にならないからだ。雑誌、マンガの売上比重が大きい中小、商店街の書店の閉店に歯止めが効かない。商店街か ら書店が消えるということは、子供たちが自らの意思で立ち読みに、購入にいける場所が無くなるということだ。読書は習慣行為であり、子供のころから親しん で、その中の何人かが継続して読書をする。その場が無くなるということは、未来の読者を失うことに等しい。三つ目は、雑誌配本に乗って吸収されていたはず の書籍物流コストがいつまで持ちこたえられるかだ。アメリカのビッグ5のように、紙の売上冊数が減っても、電子書籍の収益性でカバーできるなんて暢気なことは言っていられないのだ。誤解を恐れずに言えば、もし出版が文化なら、それは市井の、街の書店にあったものだ。