外字の無い世界を実現する

2014.08.01

日本マイクロソフト  加治佐 俊一

 今回の「キーパーソン・メッセージ」の執筆にあたり、JEPAの歴史を振り返ってみました。JEPAが設立されたのは1986年で、同じ年には、マイクロソフトの日本法人が設立されています。長い歴史の中で、IT業界と出版業界は、ともに連携しながら発展してきましたが、最も重要な日本語に関連する課題は、膨大な数の漢字の標準化とその活用です。別の言い方をすると、標準化された文字を増やしながら、「外字」を如何に減らし、最終的には撲滅することです。外字は、標準化されていない文字ですが、外字を使うとシステム間での情報交換が不能となり相互運用性が低下します。外字は、日本におけるIT活用や電子出版の発展の大きな阻害要因になっていますので、外字の無い世界の実現に向けての取り組みが重要です。では、パソコンを中心に、簡単に文字に関する歴史を振り返ってみましょう。
 「シフト JIS」は、1978年に制定されたJIS漢字コードを基本にしながら、半角文字は1バイト、漢字などの全角文字は2バイトパソコンで簡単に日本語を処理できるように設計され誕生しました。シフトJISは1982年12月に開発者向けに発表され、1983年のMS-DOS 2.0により実装が始まりました。この頃は、マイクロソフトによるシフトJISのパソコンメーカー側でのカスタマイズの制限は無く、各パソコンメーカーは、シフトJISを基本にしながらも独自の漢字や記号の拡張を行い、メーカー間での完全な文字のやり取りはできませんでした。この時期に、普及が進んでしまったのが、シフトJISの後ろの領域を使った「外字」です。JIS 第一水準と第二水準で表現できない漢字を個別に外字として登録し使うということが広がりました。当時は、複数システム間の情報のやり取りの重要性よりも、個別のシステムで表示と印刷ができればそれで良いという考えでした。
 シフトJISの発表から10年経った1992年12月に、シフトJISを基本にしながらすべての文字を定義した「マイクロソフト標準キャラクタセット」が、開発者向けに発表されました。これにより、メーカー間での文字の違いが、Windows 3.1と Windows NT 3.1の日本語版で解消されました。「マイクロソフト標準キャラクタセット」は、誕生と同時に仕様を凍結し、すべての定義された文字はUnicodeにマップされた上で、将来の文字の追加はUnicodeのみでマップすることを方針としました。その後は、Unicodeにマップすることによる追加が進み、Windows 98とWindows NT 4.0でのJIS補助漢字のサポート、Windows VistaでのJIS 第3水準、第4水準のサポートと、文字の標準化は続きました。
 OSやアプリケーションでの標準化された文字のサポートが広がりましたが、行政の世界では、用いられる人名・地名で必要な漢字を網羅するうえで、更なる文字の標準化が求められました。現在、独立行政法人 情報処理推進機構 (IPA)では、文字情報基盤整備事業として、行政で用いられる人名漢字等約6万文字を整備するプロジェクトを推進し、「文字情報基盤 文字情報一覧表(MJ文字情報一覧表)」と「IPAmj明朝フォント」を公開し、 その普及促進や国際標準化の活動を行っています。私たちの業界としては、これらの標準化された漢字を、いち早くOS、アプリケーション、フォント、さまざまなツールで活用できるようにし、外字を使わないビジネスや情報の基盤を推進する必要があります。文字情報技術促進協議会は、JEPAとも連携し、外字の無い世界の実現に向けて、産学官での取り組みを行っています。今年度は、既存の外字に依存したシステムから、外字の無いシステムに移行させる実践的な解決策を検討する「文字情報基盤導入支援部会」を発足し、2020年には文字情報基盤が定着していることを目標に掲げて取り組みを行っています。外字の無いシステムの実現により、システムの選択や接続の自由度が上がるとともに、現在の高額な維持費の削減、そして新しいより便利なサービスなどへの期待がされています。
 電子出版においては、現在はさまざまな進化や変化が続いていますが、外字を使ったコンテンツは、コンテンツを表現・保存・共有・保護などの技術が進化することで、将来的にコンテンツが引き継がれなくなる危険性が高くなります。さらに、外字を使うことにより、読み上げなどを含めて、さまざまな方法で誰にでも情報を理解してもらうためのアクセシビリティが悪くなります。
 ITが進化・普及を続けてから数十年経ちましたが、日本では、出版や行政をはじめとして外字が使われてきました。今日、外字を使わなくても良いOS、アプリケーション、ツールなどの整備が進み、文字情報基盤も整備されつつあります。便利で新しいサービスやアプリなどが次々に生まれるような土台として、一日でも早く、外字の無い世界を実現したいと思います。
参考:
 文字情報基盤 http://mojikiban.ipa.go.jp/
 文字情報技術促進協議会 http://citpc.jp/