“本”も電子出版? ニーズとともに仕組みも進化

2014.03.01

トモどっとコム  梅津 幸一

 「耳にタコ」の話ですが、出版物の売上額は平成8(1996)年をピークに減少し続けており、この「出版不況」を打開する策の1つとして、新刊点数を増やし続けています。
 分母である新刊点数が増えているにも係わらず、売上額の分子が縮小しているのですから、収益が思わしくなくなるのは当然のことで、この状況から脱却しようと新たな活路を見い出すべく電子出版など様々なチャレンジかなされています。
  本を作る側面から過去を振り返ってみますと、長い歴史を持つ活字や写真植字の時代から、パソコン上で編集・制作するDTP (デスクトップパブリッシング) が出現すると瞬く間に取って代わりました。
 パソコンを使って版面を制作するのですから、当時、これを「電子出版の始まり」とした人もおりました。製造工程の変化に伴いDTP受託を生業とする企業が現れ、今では編集者がこなしてしまう出版社も増えているそうです。 コストも削減できたようですが、大きく変わったのは製造日数の大幅な短縮でした。
 本のロット漸減が続く中、他の産業と同じく大ロット生産体制の見直しがされています。最近、大手出版社が自社グループ内に小ロット対応の製造設備を導入されました。長引く出版不況下において従来のオフセット印刷の製造コストでは「重版未定タイトル」が異常に多くなってしまい、長尺コミックスに欠本が多くなり、著者や読者のニーズに対応するために導入を決断したそうです。
 品質を重視しており、プリンター用紙ではなくオフセット用紙を使い、折り機・製本機・三方断裁機もそろえた本格的な設備です。ニーズに合わせた新たな構造の変化が起きております。
 出版社で開始することには、もう1つの大きな意義があります。それは、最終版の完全データが出版社の中で管理される点です。
 出版社や各編集者によっても違っているでしょうが、本の制作は外注に出していることも多く、データとして掌握していない例も多いのではないでしょうか。完全データが出版社の中で管理されれば、相乗効果で「電子書籍」のタイトル数が加速するだろうと期待ができます。
 同じ悩みは、どの出版社も同じです。しかし、中堅出版社では投資リスクの面から自社内に導入するというより、サポートする新たな企業が出現することでしょう。
 すでにオンデマン対応は様々な所で実施されており、ある大手書店では申し込むと10分ほどで本が手に入ります。 単なる小ロット対応の生産から更に進化し、読者が欲しい紙の本が、その場で出来上がる時代の到来です。
 年賀状や名刺などの個人の印刷は、パソコンの普及により各人が印刷してしまう時代です。
 本を自宅で作るのは、製本工程があるため簡単ではないでしょうが、近くのコンビニなどで対応するのは遠い将来のことでないかも知れません。
 製本された白紙の本が売り出され、読者は自宅で好きなコンテンツを印刷するという夢のような話しもささやかれ始めています。
  話題は変わりますが、最近、中央省庁や地方行政、企業などへのサイバー攻撃が急増していると報じられています。
 理由の1つに、日本語を習得し理解できる人が世界中に増えているからだとの説があるようです。
 今まで、日本語という障壁のため守られていたので、防御システムが他国に比較して脆弱なのだそうです。
 ネットワークは便利な環境を提供してくれる半面、全世界のあらゆる場所から、日本という現地に赴くことなく、様々な機密情報を不法に持ちだされる弊害も持ち合わせています。企業が膨大な投資をして築き上げた貴重な知的財産の漏えいは企業にとって死活問題でしょう。
 電子書籍市場も順調に伸びていますので、さらに儲かるようになれば、世界中から群がる輩も現れる危険がありそうです。コンテンツの再生産をするために適正価格を得る仕組みは維持しなければなりません。
 タダか極端に安い価格であれば、不法コピーや不正アクセスも少ないでしょうが、価格が高ければ高いほど危険が大きくなるのは当然と考えます。
 貴重な専門コンテンツや、長年にわたって編集・蓄積されてきた辞書マスターデータなどが、品質の劣化することなく支払いがされずに無数に増殖する悪夢は見たくありません。日々、データは更新されているから、脅威ではないとの意見もあるようですが。
 「日本語を理解できる人が世界中に増加」との説が正しければ、逆に世界中に日本語の需要を拡大できる良い面も期待できます。
 昨年の定例会セミナーで講師の「黒船を怖がるのではなく、逆に世界に打って出るべき」を思い出します。
 あわせて、ネット攻撃などに対する新たな対策も、これからは忘れてはいけないようです。 先月、ある大手取引所のビットコインが突然に取引停止し翌々日には破産しました。
 買った電子書籍をネットワーク上に「各人の本棚」として収納できるサービスも始まっております。
 一部でささやかれている電子書籍が紙の本に取って代わるとは考えにくく、電子書籍は「消費するもの」で紙の本は「保存するもの」との考えもありましょうが、買い続けた電子書籍が一瞬で消滅したり利用できなくなる悪夢も見たくありません。
 コンテンツの権利関係は、当協会の専門委員会でも研究が進められており、1つ1つ問題点が解決され、市場は確実に拡大するでしょう。
 余談ですが、本と違いネットオークションや古本屋などへの転売はしませんが、大した遺産も持ち合わせていない者として子供へ相続させたいと考えるのは親バカだから、でしょうか。