パラダイムシフトする印刷業界 -新たな出版印刷会社を目指して-

2014.01.01

萩原印刷  萩原 誠

 今回は、昨年の10月11月とヨーロッパ、アメリカの先進印刷会社を視察見学する機会を頂きました。その報告レポートをお届けします。ご存じのように、印刷業界は1991年の8兆9,000億円をピークに右肩下がりを続け、2012年は5兆9,000億円まで落ち込みました。一方出版業界も1996年の2兆6,000億円(雑誌・書籍含む)を境に2012年は1兆9,000億円まで下落しております。そんな中、世界の印刷業界も同じように厳しい時代を迎えております。
 ドイツでは、印刷業界の危機感は日本以上に高まっていました。現在、ドイツには約10,000社の印刷会社がありますが、印刷市場規模が縮小し、5年後には約5,000社まで会社数が減る予測が立っています。印刷会社の平均利益率も1%台で日本と同じく価格競争が激化しています。一番の理由は、西ヨーロッパと東ヨーロッパの賃金格差です。ヨーロッパは陸続きのため、ドイツの近隣諸国で価格破壊が起こっており、ドイツ近隣のチェコ、ハンガリーでは人件費がドイツに比べて1/7~1/10と言われております。日本と近隣諸国の中国・韓国と状況は似ていますが、陸続きのため、より深刻な問題となっています。そのような中で、生き残りをかけてさまざまな取り組みをしている会社を視察してきました。
 10月にはイタリアのミラノにあるRotomail社を訪問しました。1996年の創業で、当初よりDigital印刷機のみの設備で元々は請求書明細等を印刷していました。現在では小部数印刷、POD、バリアブル印刷、フォトブック、更には新聞印刷から商業印刷までをインクジェットデジタル印刷で提供しています。従業員108名で30名がITシステム開発 7名が営業マンというところに特色があります。受注は主にWeb to print(ネットで印刷物を受注する仕組み)で行っています。Rotomail社の強みは、ITとデジタル印刷を上手に融合しているところです。この点がとても参考になりました。
 ドイツのフランクフルトにあるElanders Germany社は従業員200名、ITスタッフ13名、プロジェクトマネージャ-16名、キーアカウント営業8名、ロジスティック25名で残りが製造スタッフとなります。従来型のオフセット印刷を柱にしながら、オフセット+IT+デジタル=三位一体の体制を整えています。商業印刷、パッケージ及び電子商取引、Web to print、フォトブックなど時代と環境にマッチした事業を展開していました。歴史があり、顧客もBMW、ベンツ、アウディなどグローバル企業が多く、さらに医薬品のパッケージなど幅広い製品を手掛けていました。社長がデジタルの強みを基に新たな提案を行い、旧態依然の営業スタイルから脱却したことがポイントと話されていたのが印象的でした。
 アメリカ、NYのRICGは1989年創業で年商27億円 社員数50人でヘッドオフィスはNY、工場はニュージャージー州(NYオフィスから車で40分)。強みはデータ分析、ブランディング戦略、クリエイティブワーク、マルチチャンネル(クロスメディア)をコアコンピタンスとしていて4D rapidmap™というマーケティング戦略のブランドを立ち上げ、マーケティング支援を前面にして新規顧客を開拓していました。まさに広告代理店にも負けないマーケティング戦略を実践実行して成果を上げている印刷会社です。
 さらにアメリカのロチェスターにあるCOLOR CENTRICのビジネスモデルは一冊だけの印刷物をターゲットにしています。主にLULU.com BERNS & NOBEL WALMARTなどの仕事を受注しています。平均1日3万点(5万アイテム)の製造をしています。フォトブックもOEMで提供 顧客の発注は平均1.8アイテム、3部で受注後24~36時間で発送していました。自らの営業やWeb to printの窓口は持たずに製造に専念し、そこに資源を集中し効率を上げ収益を稼ぎ出しています。
 最後はアメリカのオーランドにあるdmeです。扱う品目はパーソナルマーケティングの戦略立案、データベースマネジメント、ダイレクトメール製作、eメール配信、PURL制作、W2Pポータル制作、クリエイティブデザイン、動画制作、コールセンター受託等です。主要設備はindigo×2 Xeikon×2 IGEN4×2(全てデジタルオンデマンド印刷機)。一方で家族的な社風を築き一般社員の定着率を上げることでノウハウの蓄積と効率化が行われていました。福利厚生も充実させて、有能な幹部社員には自社株を持たせ定着と目標意識を高めていました。
 その他にもいろいろな先進中小印刷会社を視察して来ましたが、どの会社も今までの成功体験やビジネスモデルに固執することなく、自らの努力で新しい市場を切り開いていました。お客様のビジネスパートナーとして揺ぎ無い地位を築かれていました。日本の中小印刷会社も過去の成功体験に驕ることなく、お客様と一緒になって新しいビジネスを切り開いていけば、明るい未来を必ず迎えることができると信じて、このレポートを終わります。
 本年も会員会社の皆様にとって素晴らしい年となるよう祈念申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます。