被災地で次に求められているもの

2011.10.01

朝日新聞出版  勝又 ひろし

 電子書籍をめぐるここ1年くらいの業界うちそとの喧噪、憶測、懸念、妄想、期待などにすっかり疲れているのですが、先日それを忘れる背筋の伸びる経験をしました。
 いま日本雑誌協会デジタルコンテンツ推進委員会では。電子雑誌の実証実験の一環として、東日本大震災の被災地のコミュニティに、電子雑誌をインストールしたiPadを配布して、住民の皆さんに読んでいただこうという活動をしています。電通ソーシャル・ソリューション局の協力で、現地で活動するNGO/NPOのボランティア団体に打診し、希望があったところに各出版社からの3~4名の有志がiPadを持って行きます。中には週刊朝日、AERA、サンデー毎日、エコノミスト、週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済、暮らしの手帖、少年ジャンプ、DIME、Hanakoなど30誌がインストールされています。すでに50台ほどのiPadの配布が終わっています。
 私も先月、宮城県名取市と気仙沼市に行ってきました。名取市は震災時、津波が家々や畑を押しつぶしていく様が空撮で生中継されたところです。家の土台以外何も残っていません。気仙沼は、大型船が陸地まで押し流されてまだそのままになっていました。起伏に富んだ地形のため、全壊した家の隣にほとんど無傷の建物があったりして、名取とは違う被害の様相を呈していました。
 震災からしばらくは、被災した人たちは被害の状況を映像や写真で見る機会があまりありませんでした。メディアへリーチができなかったからですが、そもそも生きていくのに精一杯の状況でした。ですので、現在でも当時の臨時増刊号の需要が高いといいます(もちろん見たくもないという人もいます)。雑誌は娯楽だけでなく、精神的なショックによるうつや自殺を防止に役立つ、というボランティアの声もありました。出版界は総出で数十万冊の書籍や雑誌を被災地に送りました。それはそれでお役に立てたと思いますが、読み終わった大量の本が問題になっているところもあります。今回の配布はデジタルのメリットを最大限に生かした試みであると同時に、本当に読者目線で電子出版を体験してもらい、我々もデジタル雑誌について考えるよい機会だと思っています。