大震災が示す電子出版の役割

2011.03.15

大日本印刷  池田 敬二

★震災時の各メディアを検証
 2011年3月11日に発生した東日本大震災。発生直後には電話回線が混乱をきたし、テレビ局は広告を自粛して緊急放送を続けた。生放送というリアルタイム性、共時性はテレビというメディアが最も長けている。
 しかし、テレビ単体では多様な価値観を供給し、国民一人ひとりが判断の材料にすることには適していないことも今回の災害で実感した。テレビで放送される官邸や東京電力の記者会見をどのように感じ、背後にどのような真実があるのかという多様な意見を提供するには、ツイッターなどのソーシャルメディアを補完的に活用していく必要がある。確かにツイッターやチェーンメールで誤った情報が流れてきたことも度々あったが、修正されるスピード、即効性がツイッターに備わっていることも証明されたといえる。
 一方、出版業界では、雑誌の発売遅延という予期せぬ事態が起きた。東北地区の製紙工場が製造不能となり、鉄道の運休、運送業者の多くが地震復興に優先され、加えて燃料事情の悪化といった要因が重なり、発売延期を余儀なくされた雑誌が200誌近くとなった。
 一方、災害直後に刊行された雑誌の中には雑誌メディアが持つ底力を感じた。もっとも印象的だったのは「週刊ポスト」(特集 日本を信じよう!2011年4月11日号)であった。ツイッターでも多くの方々が絶賛していた。
★期待される電子出版の力
 この災害からの復興を支援するために電子出版コンテンツを無償で公開する動きも相次いでいる。医学書院は、『今日の診療 WEB版 法人サービス』 や 雑誌での震災関連記事を無料で公開、有斐閣は阪神淡路大震災時に発行した雑誌「ジュリスト」臨時増刊の記事 や心的外傷症候群をテーマにした心理学の書籍コンテンツなどを公開した。
 無償公開の潮流は学術系のコンテンツだけではない。「週刊アスキー」や「週刊少年ジャンプ」「週刊少年サンデー」「週刊少年チャンピオン」といった娯楽系のコンテンツも無償での公開を開始した。
 電子出版というとデバイスやフォーマットに関する話題や紙の本が無くなるというセンセーショナルな出版業態の変革に関する視点に終始しがちである。しかし、今回の災害により、人びとにとって本当に必要であり、求められている出版コンテンツとは何なのか、という「出版」というビジネスの根源に立ち返った本質論が問われているともいえる。電子で完結するコンテンツもあれば、プリントオンデマンドで出力、掲示して複数の方々が読むといった様々な読書行為が展開されるであろう。電子出版の世界でもこの災害から多くのことを学ぶことが今後のビジネスにも重要な指針を示してくれるはずである。