規格統一でワンコスト・マルチ展開を
2010.11.01
共同印刷 清水 直紀
先日のシルバーウィークに、所用で妻の実家がある東北の地方都市に行った。地方都市と言っても県庁所在地である。いまさら言うまでもないが、書店はJRの駅ビルにあるか国道沿いにチェーンストアがあるだけだ。実家は市の中心部から車で10分ほどのところだが、書店に行くには車で向かうしかない。
妻の実家ということもあり暇を持て余していたが、車で文庫本を買いに行くには中々腰が上がらず、かといって何か読み物はないかと、現実感のない地元ネタの地方新聞を隅々まで読みながら、通話専用としている携帯電話だけを持って出かけ、iPhoneを忘れてきたことを悔やんでいた。
私事はともかく、スマートフォンやタブレットPCの普及は首都圏在住者の30代を中心に拡大しているという。そしてMM総研によると、携帯電話の販売台数に占めるスマートフォン販売台数比率が半数を超えるのは2015年度(54.6%)と予測している。電子書籍が、本当の意味で便利だと感じる読者に届くまではもう少し時間がかかりそうだ。
電子書籍市場拡大のポイントであるスマートフォンや読書専用端末の普及は、通信キャリアや端末メーカーの努力に期待したいところだが、もう一つのポイントとしては電子書籍の利便性を高めて読者を拡大する事も必要であろう。読者に届くまでの仕組みや、流通の規格は関連する企業や個人が有意義でなければならない。印刷会社に籍を置くものとして、直近の課題は電子書籍の制作コストと紙、PC、スマートフォン、タブレットPCなど多チャンネルへの展開であろう。電子書籍1冊の単位で考えると、売上げに対する売上げコストを引き下げる努力がなければ、ロングテール化する電子販売のモデルでは成立しなくなってしまう。極論すればワンソース・マルチ展開ならぬワンコスト・マルチ展開とでもいうべきものか。
電子書籍を制作の現場からみると、印刷におけるプリプレス(昔は製版と言ったが、もはや死語らしい)と類似した状況になって行くだろう。
DTPの登場でプリプレスにかかるスピードとコストダウンは飛躍的に向上した。印刷会社や製版会社はInDesign等の組版エンジンを活用して独自にプラグイン開発を行い、自動組版など高度な作業を簡素化していった。結果としてDTPでは、その規格を実質的にまとめたのは、Adobeという黒船企業のInDesignであったが、電子書籍を視野に入れた場合はどうであろう。
課題は日本電子出版協会、電子書籍制作・流通協議会や日本電子書籍出版社協会など関連団体が統一した規格を策定し、制作会社はそれに向けた制作の合理化を行い、コストダウンに向けて切磋琢磨することが電子書籍全般のコストダウンに寄与し、市場活性化の一端を担って行くことになるのであろう。