トモどっとコム 梅津 幸一
今年に入って、NHKや民放テレビなどで読書端末を盛んに取り上げるようになった。
この不景気の中、「2年前に比較して市場が30倍」はインパクトがあり過ぎる。比較する分母が小さいのだから、30倍といわれても、出版市場を回復させる力は、まだ持ち合わせていない。米国での飛躍を受けてのことであろうが、NECやソニー、松下電器の読書端末に関わってきた者として、「日本でも」との期待には何となく違和を感じる。
出版不況が話題になってから、残念ながら売り上げの減少は続いている。”本を読まなくなったから”との評価より、人口が減少に転じたのだから、”従来のままでは減るのは自然の流れ”との論評の方が、むしろ納得する。
読書端末を包含する電子出版、その中のコンテンツビジネスは、すでに出版社の売上として無視できない存在になっており、明るい兆しは確かにある。10数年前から市場を形成している辞書・辞典を搭載した電子辞書はもちろん、医学関係や建築関係、法律関係などの出版社でも、収益の主要を占めるに至っているとも聞く。
CD-ROMの時代は、電子出版の時代を予感させるに十分な拡張を示した。
その後、ネット社会になって、予期しなかった混迷の時代を迎えた。印刷しなくてもよいから製造コストが省かれ、利益率が驚異的に上がるだろうとの思惑は消え去り、コンテンツは無料との狭間で、もがき始めた。
無料で読めるブログは、文字数として出版を圧倒的している。なのに、”出版を脅かすもの”との考えは消え去った。著者の技量は問うまでもないが、編集しているか、しないかには決定的な違いがあり、あるなしの差は”商品か、そうでないか”の差を生んでいる。
普及するポイントの1つに、電子出版を編集する”編集者”のセンスにかかっているように感じる。紙の書籍をそのまま読書端末に表示しても、はたして読者に受け入れられるのであろうか、はなはだ疑問である。
紙との共存とする見方もあるが、持ち合わせている編集のセンスで補完し、紙にはない読者への利便性を追求すれば、新たな文化が生み出せ受け入れられるのではなかろうか。
先ほど述べたように、日本で産声を上げた読書端末は成功しなかった。いずれのメーカーとも、「コンテンツが揃わなかった」と言い訳をする。
コンテンツをデジタル化する側からすると、まずデータの標準化がなされていなかった点と、お役所の縦割り行政のため、読書端末に通信機能は搭載されておらず、コンテンツをその場で受け取ることができなかった。いったんパソコンでコンテンツをダウンロードが必要で、「いつでも、どこででも、だれでも」は実現できていなかった。
最近では、出版社とメーカーの両輪が確立できなかったのが原因の1つだと、思い始めている。
冷蔵庫や洗濯機などメーカー単独で成立するアイテムは、新しければ新しいほどユーザーには受けが良い。放送の規格が標準化されているテレビも同様である。
しかし、同等のパートナーが必須なものは、片一方の早すぎる技術が致命傷になる。いずれのメーカーも、もう一方の車輪が育つまで待てなかった。出版は日本の文化であり、同じコンテンツの部類でもゲーム・ソフトとは違う。
インターネット社会が、新たな仕組みを引き”興している”のも事実である。
アマゾンなどネットでの書籍販売は、無視できなくなっている。
地方や離島などで書店がない地域では、ネット利用者が増えていると聞く。
地方の出版社の一部では、売り上げが伸びているという。今まで地元の書店でしか売れなかった書籍が、ネットなら全国の読者に提供できる。NHK大河ドラマの影響で、高知県にあるだろう出版社のホクホク顔が目に浮かぶ。
日本の出版市場は難解とされる日本語に守られてきた一面があったが、逆に世界へ供給する点では障壁となっていた。
ネットによって自分らの国の文化を、直接、世界に発信できる手段を手に入れた。単なる流通の改革なのではない。単なる翻訳ではなく自らが編集して配信できる。
世界各国で日本語ブームだと聞く。ネットなら彼らに手助けが出来る。北海道などへの観光客は外国人が急増しており、一部の地区では日本人より多いそうだ。来日はしないが日本に興味のある多くの外国人向け案内誌にも期待できる。
世界に目を向ければ、新たな出版市場は無限にあるような気がする。
先日、国会の大臣たちが遅刻したと、大々的に報道された。官僚の逆襲に”はまった”などと報道されていたが、10分前には入るのが常識だから、言い訳にはなるまい。
そんなことより、遅れた大臣たちが「ツイッター」をしていたのだそうである。
今までの国会のオジサン達は、居眠りをするのが常道だったし、お隣同士での雑談がせいぜいだった。政権が変わったとはいえ、居眠りと雑談が得意な国会議員も、電子機器をうまく活用していたのである。
読者の受け入れ態勢は、いつの間にか整っていたようだ。
米国の読書端末での成功事例も手に入れた。日本人向けに改良・修正すれば良い。国内でのネット環境は、ハード面だけでなく、年層を超えて電子端末での読書意識も整った。
出版の未来は明るい。