自由電子出版 長谷川 秀記
ネット上ではいろいろなことが起こる。オバマ大統領はネットから生まれたなどという世界規模の騒動から、Yahoo!の検索ランキングがワイドショーの定番ネタになったりする。
しかしネット上で起こっている本当に新しいことはそんな世界を左右するような動きではなく、もっと片隅のミニマムな事象なのではないだろうか。
私事で恐縮だが最近はいろいろな趣味の方々と休日を過ごすことが増えた。少し世間でも話題になった工場を愛でる方々から団地、ダム、送電鉄塔、ガソリンスタンド、水門、壁、エスカレーター、エアコンの室外機、国(酷)道、窪地、暗渠…。一体趣味と言えるのか不明な趣味人ばかりである。
私は送電鉄塔ということでこれらの方々とお付き合いが始まったのだが、実は送電鉄塔の趣味というものがあるとは最近まで知らなかった。 私が送電線にはまったのは偶然だ。ある日ちょっとしたきっかけで送電線をたどってみた。それがとても面白く「マイブーム!」なんて乗りで楽しんでいた。
ある日、ためしにネットで「送電線」と検索をしてみた。そうしたら出てくるは出てくるは、送電鉄塔を取り上げたページが引っかかるではないか。その時、私の「マイブーム」は「趣味」に変わった。「趣味」といえるためには一定の数の同好の士が必要なのである。
今お付き合いしている趣味人の方々もみなインターネットなしでは浮かび上がってこなかった人なのである。
鉄道ファンのようにメジャーな世界ではないが、ミニマムな世界でも結構な数の同好の士はいる。いてもネットなしでは孤立して埋没していたに違いない。ネットはそれを集団に仕上げる働きをしているのだ。
集団が形成されるだけではない。印刷本も出版される。部数を聞いても少なくて3000部、成功例では万を越える読者を獲得しているから馬鹿にはできない。工場鑑賞に至っては工場鑑賞クルーズ船も運航されるなど、経済効果は大きいようだ。
こんなミニマムな世界を採算ベースにのせるインターネット効果は馬鹿にできないのである。ネットではこういったマイナーな世界にこそ宝の山が埋まっているような気がする。
さて電子出版だが。本来出版物は他の媒体と比較してマイナーな分野を扱うのに長けた媒体だ。そこにこそ出版社の一番の売りがあったのだが、インターネットの登場でその地位は少々危ない。危ないがまだまだ捨てたものじゃない。
ほとんどの出版社は専門分野を持っていたり、ある傾向のコンテンツをブランドにしている。つまりメジャーな商法ではなく、ある断面で商売をしているはずだ。
その分野においては書き手の方々も、読み手の気持ちも知っている。それならば、その分野のポータルサイトを作れる能力と条件を満たしているのではないだろうか。そんなサイトを仮に蛸壺型ポータルと呼ぼう。Yahoo! にはなれないが、ある限られた世界ならYahoo! になれそうな気がする。
現在、出版社が自分の専門分野でポータルサイトを作った事例は農文協の「ルーラル図書館」など数えるほどしかない。紙の本ではある分野のブランドとしての地位が確立していても、ひとたびネットの世界になると無名ということが多いのではないだろうか。
ネットの上でもこの分野ならこのサイトというブランドを目指してみたらどうだろうか。
人を集めるには良いコンテンツを取り揃えることだ。すぐに反論が来るだろう。良いコンテンツを無料で提供したら本が売れなくなる。さてどうか。
先ほど紹介した趣味人たちのサイトと印刷本を比較すると面白いことが分かる。印刷本はネットに出された情報のほんの一部分をまとめたもの、実は無料のネットのほうが情報が多いのだ。それでも印刷本は売れている。
ネットワークコンテンツとパッケージコンテンツの関係は実に複雑怪奇な関係のようだ。
採算?! どうやってお金に換えるの? まあいろいろ大変だ。でも集客してから採算を考えるというのがネットの世界での王道というではないか。人が集まれば印刷本も売れる、電子出版物も売れる。能天気な私はそんなふうに考えるのだが…これじゃぁやはり会社を説得できないか。やれやれ。