ぼちぼちとデジタル

2008.11.01

朝日新聞出版  勝又 ひろし

 某大手ポータル運営企業と、こちらが出版している雑誌の記事を提供する話をしていた時のことです。提供料金の話になり提示された金額を見て、「これはなにかに似てるなあ」と思いました。江戸末期、武士の没落と入れ替わりに勢力を伸ばしてきた商人が、貧困にあえぐ武士たちの刀剣類を二束三文で買いたたく光景です。出版社が武士ってのは変ですが、気位ばかり高くて、長らくこれまでの立場に安住していたところなどは似ているわけですね。幕藩体制と再版体制とか。
 最近のネット企業は一次情報はほしいが、ストレートニュースはもうそれほどいらないようで、もっと深く掘り下げた記事を求めています。雑誌記事はその格好のコンテンツですから、出版社にたいするアプローチも盛んです。先方は、出版社サイトへ多数のユーザーを導入できるメリットをあげ、できれば無料で使いたいというのが本音でしょう。広告ビジネスを絡めてくることもありますが、最終的には一本いくらの世界です。
 実際のところ、こちらのサイトに多くの人がやってきてリアルの雑誌や本をバンバン買ってくれている形跡はありません。逆にネットに記事を出しているから売れなくなった、というデータもありません。結局ポータルに誌名が出て、多くの人に認知されるという、あまり売上に結びつかない宣伝効果がある、というところに落ち着いています。それはそれでいいかなと思っています。
 ここ一、二年、デジタルマガジンや携帯配信など手当たり次第にデジタルコンテンツを投入してきましたが、これはビジネスにならない、という確信を得るケースが多く、大変勉強になります。いずこも事情は同じだと思いますが、製作費と権利処理が最大のネックになっています。一方でここのあたりを手当てすれば、それなりにイケるかもしれないという感触を得たものもあるので、ぼちぼちとやっていきたいと思っています。