NHK出版 泊 祐二
●dテキストって何?
「dテキスト」と聞いても内容の分かる人は少ないだろう。
弊社(NHK出版)が2007年からはじめた実証実験で、NHKの語学や趣味・実用系のテキストをWEBで提供している電子版雑誌のことである。パソコン版のNHKテキストと考えていただければ良いだろう。
現在はビットウェイブックス、電子書店パピレス、雑誌のオンライン書店fujisan.co.jpの3社へコンテンツ提供の形で「実験」を行っている。
ちなみに、dテキストの「d」にはdijitalize(デジタル化)という通り一遍の意味と、development(発展)、出版文化や企業資産をdefense(防御)したいという願いが込められている。
実のところ、第一候補だった「eテキスト」が商標登録されていたことも大きなファクターになっている。「fテキスト」も検討したが、-この場合はfuture text(未来のテキスト)というこじつけ-幸いにも「dテキスト」が商標登録されていなかったために、この案は日の目を見なかった。
●コンテンツは学習・実用系
提供コンテンツは初級の英会話、ビジネス英語、中国語、趣味実用系の趣味悠々、まる得など10誌。目玉は音声付の語学テキスト「NHKテレビ&ラジオ合併版 週刊リトル・チャロ」と「NHKテレビ リトル・チャロ カラダにしみこむ英会話」の2つのコンテンツである。チャロはNHKが2008年4月から放送を開始したクロスメディア番組で、電子版では、テキストに掲載した画像のスライドショーや、英文の音声再生が可能である。さらに、辞書機能、メモ機能などを付加している。
コンテツはリッチなものが良いかシンプルなものが良いかといった議論が良くあるが、dテキスストに関しては音声付のものが売れている。音声なしのものに比べて約10倍の売上である。販売価格も2倍近くにはなるが、利便性が価格差を埋めていると判断されたのであろう。
テキスト部分は、省力化をはかりたいことと、2ページ見開きにしたいこと、著作権保護の観点からKeyring PDF形式を使用している。音声は著作権保護に対応した電子書店がないことから、別サーバーより配信している。
事業の拡充には、販売サイドのインフラ整備も大きな課題になると考えられる。
●目的はテキストの全国配布と新しいメディアへの対応
活字離れが進み、地方書店は年々減少している。また放送法では番組内容の「周知義務」、すなわちテキストを「全国に配布すること」が定められている。しかし、そのことは既存の書店ルートだけでは難しくなっている現実もある。電子という配送手段に寄せる期待は大きいのである。
さらに、インターネットの急速な普及に対応した視聴者・読者へのサービスの向上や新しいメディアへの展開も避けて通れない課題である。メディアの垣根を超えた複合サービスの提供は視聴者・読者のニーズでもある。電子書籍が社会の基本インフラになることがNHKグループともども切に望まれる。
●実験の位置づけと検証項目
◎放送とテキストの役割について
1.放送の多様化や音声配信といった新事業に則した放送テキストのあり方や配布の方法。
2.パソコン(インターネット)での放送テキストの利用の新しい可能性。
3.新しいメディアへの対応と新しい利用形態の模索。
4.電子版の特性を生かした放送テキストの可能性、特に音声付きテキストの可能性。
◎dテキストの製作、販売について
5.販売期間並びに品揃えについて。
6.価格について。特に紙媒体との関係について。
7.放送テキストのマーケティング。語学テキストの他、家庭実用系や教養系テキストの可能性。
8.ユーザーの利便性とコンテンツの保護とのバランスポリシーの定義づけ。
9.PCネットワークを利用した販売方法と決済手段の拡大。
10.本のテキストに関心の薄い年齢層への訴求、並びに書店への来店習慣の少ない層への訴求。
11.著作権の許諾方法および契約書の新たなひな形の作成。
12.広告の有様の検討。バナー広告、タイアップ広告、紙テキストとの並列方式の研究。
13.ダウンロード販売における権利者間の収益の分配モデルの確率。
14.「テキスト」→「ムック」→「電子書籍」という出版モデルに対し、紙媒体と同時配信の評価。
◎中長期的展望に基づいて
15.二次展開3次展開の多様な可能性。
16.オンデマンド出版の可能性。
17.NHKならびにNHK出版アーカイブの可能性。
18.関連メディアとの連携、融合並びに新事業の可能性。
●最後に
課題や検討事項がやたらと多くなってしまったが、ユーザーフレンドリーな商品の充実、電子書籍市場の発展、安定供給のできる利益の確保に向けリニューアルを重ねたいと考えています。ご意見、ご感想がいただければ幸いです。