コンテンツのマルチユース化と製作について

2007.09.01

共同印刷  清水 直紀

 電子書籍の市場規模の推移を流通の形態別に見てみると、パッケージソフトによる流通がほぼ横ばいから減少傾向にあるのに対し、インターネットや携帯電話によるものは右肩あがりです。なかでもマンガの携帯電話による配信が急激に増加していることは、今更あえて説明するまでもない事となっています。
 さて、市場の拡大についての解釈は専門のアナリストにお任せするとして、これら電子書籍とくに市場の拡大を牽引しているマンガのコンテンツ製作の話をしたいと思います。
 出版社のコンテンツを預かり、紙という従来メディアに印刷という形で表現していた印刷会社は、長い間紙をターゲットとした品質の向上に努めてきました。言い換えれば、紙への再現性を基本にデータの作り方を工夫してきたことになります。
 ここに本格的な電子出版の市場が確立されてきた現在、もはや品質の出発点は紙だけではなく、様々なディバイスを想定する必要が出てきました。今後は品質の検討項目に、たとえば以下のようなものが必要になるかもしれません。
 画像化されている、級数の小さなフキダシ文字を滲まないようにしっかり見せるには、元画像の仕様と品質のガイドラインを決める必要があります。また多様なディスプレイサイズにも、スクリーントーンの縮小モアレを発生させないようにするには、このガイドラインに沿った縮小方法の検討と技術開発が必要となります。
 インターネットでは既にコミック雑誌の配信がスタートしております。ここには記事ページがあり、フキダシ文字以上に小さな級数が使用されています。さらに、巻頭カラーやグラビアページには色再現の管理という、マルチディバイス化には非常に厄介な課題が存在しています。
 出版社が自社のコンテンツをインターネット、携帯電話、携帯ゲーム機、今後出現する新しい端末へと販売の機会を拡大する事によって、それを見据えた製作の体制と品質基準を作り込む必要があります。
 つまり、出版社としての販売的側面である「ワンソース・マルチユース」は、印刷会社における製作的側面として「ワンソース・マルチディバイス」に品質対応するということになるのです。
 印刷会社としてはあと1ヶ月もすると、例年11月末あたりから書店での平積みが始まるCD-ROM付き年賀状素材集の生産が始まります。限られた予算のなかで、「取次ぎ流通の過程でデータが破損しない仕組みは」「読者にとってメディアが取り出し易い形態は」などと、いわばアナログ的にパッケージの品質や仕様に腐心するシーズンがやって来ることも事実なのでありますが・・・いずれにしても製作の体制と品質が重要視される時代が到来していることだけは確かだと思います。