電子出版とデータベース

2007.04.01

日外アソシエーツ  和田 淳

 日本の電子出版は1992年に発売されたソニーの電子ブックが一つの端緒となって、大手の出版社がこれをリードする形で参入し、編集も印刷製本に相当するプレス関連業者も電機メーカーも、そして流通も巻き込んだ形で、出版という枠組みを拡げる新しいビジネスモデルが構築され、現在のより広い意味での電子出版に発展してきました。
 私が電子出版に関わるようになったのはそれよりもう少し前の1987年で、まだCD-ROMの標準フォーマットも定まらないうちに、自社独自規格でパッケージ商品を制作・販売し始めていました。また、同時にパソコン通信を利用した有料のネットワークサービスもこのころから開始していて、まさに技術的にも営業的にも初めてづくしのことばかりでした。ある意味では電子出版協会の20年と共に歩んできた、といえるかもしれませんが、振り返ってもう一度回りを見渡したとき、いったい何が得られて、社会的にはどのような貢献ができたのか考えてしまいます。
 個人的には、辞書・事典や人物・文献データベースの二次的な編集・制作に携われたことで大いに自分の興味を満たし、それなりのスキルも得られました。また、社会的にも割と大きく貢献できたのではないかと思います。現にある世代以下は電子辞書やインターネットを利用して「検索」という行為をごく当たり前のこととしてできるようになり、活字離れといわれた世代に電子媒体で読書をするというライフスタイルを提供しました。ただ、営業的に大きな利益をもたらしたかというと、そこがあまり満たされていないかもしれません。一時は従来の紙の出版文化にとって代わるかのような幻想がその期待感を煽ってしまった分、残念ながらそれほどではなかった、ということかもしれません。
 電子化の功罪という観点から言うと、もう一つ大事なことがあるように思います。日外アソシエーツはMAGAZINEPLUSという雑誌論文データベースを主に大学図書館にてご提供させていただいていますが、こういう基本的なデータベース提供に対する国の指針や理念が非常にあいまいなまま進められている点で、このことは将来的に欧米はもちろんアジアの中でも大きな差がついて、とくに学生の「質」の部分で世界的に格差をつくってしまう一つの原因になるのではないか、ということです。
 民間企業の適正な競争と国の施策とをきちっと立て分けて、50年100年のスパンで資料のデジタル化やデータベースの構築・利用促進を適切に進めていかなければならないことを痛切に感じます。音楽や動画の配信にまつわる話題の方がなにかと大きく取りざたされるその裏側で、大げさに言えば国の将来を左右する大事な施策をないがしろにしていることになるのではないかと危惧します。
 もちろん「国を挙げて」なにかをすることだけが重要だというのではなく、国がやるべきことと民間に競わせることを立て分けることによって、全体的に適切な環境を作っていけるのではないかということです。
 そうこう言いながら、昨年夏に制作から営業に異動になり、国の施策がどうのという前に売上を上げなければならない立場になりました。データベースの存在価値よりも自分のレゾン・デートルを示さなければならないかも知れない今日この頃です。