凸版印刷 斉山 英文
JEPA設立二十周年にあたる今年2006年、振返ると私自身も“電子出版”に関わることになってこの12月で丸二十年が経つことになります。これと同じ時間を経た二十年後は世の中どんなことになっているのだろう(自分がいくつになっているかはさておき)、そんなことも思いながら、今回はひととき足を止めてみたいと思います。
二十年前の電子出版といえば、音楽用に出現したデジタルメディアであるコンパクトディスク(CD)をCD-ROMやCD-Iとして利用。主に辞事典や図鑑など、当時は印刷用データとしてデジタル化が進んでいたコンテンツジャンルを相当の苦労(費用)をかけて一大開発し、ソフトだけで数十万円の値付けで“販売”されることも珍しくありませんでした。また、ハード面では、当時CD-ROMの代名詞的存在であった「広辞苑」の最初の製品は、OASYSワープロの上位機種とソニー製外付けCD-ROMドライブとの組合せでしたし、その後もPC9801シリーズを中心としたMS-DOSマシン向けの高価なソフトが多く、とてもコンシューマ向けの“出版”とは言えませんでした。
それでも当時のHD換算で1MB=1万円(現在なら1GBのUSBメモリーを買ってもお釣りがくる)の時代としては、600MBが収まるCDメディアは画期的な発明でした。
(さすがに、先駆けとなった辞事典ジャンルは、ネットワークの進化した今日においても、“電子辞書”という、ある意味で紙よりも適した出版形式を得て立派なマーケットを確立しています)
その後PCは、「FM TOWNS」というこれも画期的な“マルチメディア”PCやMacintoshが、競うようにカラー写真や音声、あるいは何とか映像まで扱えるようになり、また、Windows OSの登場も相まって一気に文字通り個人向けに普及が進み、電子出版市場も順調に拡大するかに見えました。事実、Macromedia社のDirectorの登場で、特にエンタメ関連やデモソフト集などのCD-ROMが、趣味系雑誌やパソコン誌に付録として添付されるものが大流行し、それなりの一時期を築きました。(現在でも年末の年賀状ソフト関連ムックはこの形態がすっかり定着)
一方、文字モノではICカード(電子手帳やリファロで使用)やFD(デジタルブック)なども媒体として駆使することも含めて、1990年登場の8cmCD-ROMを利用した「電子ブック」向けに多くの出版社から何百というタイトルが出版され、最終的には音声対応まで行ったことで、語学シリーズや音声小説など様々な工夫を凝らしたものでした。
そうこうするうちに、インターネットの登場で出版コンテンツも電子書籍やオンラインマガジンとして“有料”配信することが電子出版の主流となり、今日では携帯電話向けでは比較的“有料”のハードルが低いようで、そこを中心にコンテンツの投入が盛んに行われています。
二十年後は、といえば紙が完全になくなることは全く無く(完全なペーパーレスは、ひょっとすると人間が生物学的にも一段の進化を遂げるほど膨大に年月が必要?)、むしろ、IT手法によるコンテンツ入手が当たり前のように紙と共存し、“電子”出版と特別視されることもない快適な世の中を想像します。
技術はどんどん進化します。しかし、人手が入って初めて、お金を払っても得たいものが完成する最たるものが出版物だと私は思っています。 ただ、“情報”と“作品”で求められる品質やスピードが異なることも確かであり、この辺りを踏まえつつ、快適な未来を目指して、拙い努力を続けていくつもりです。