出版コンテンツの蓄積によるビジネスモデルを考える
2006.06.01
NECソリューションズ 田中 英俊
Web2.0だLongTailだと、インターネットの成熟の変化を表す言葉が盛んに使われるようになったが、出版でもこのような変化へ対応しなければいけないし、対応する際に気を付けなければいけないところもあると考えている。変化とは、JEPAニュース105号「Web2.0時代の電子出版」(イースト・下川氏)で紹介されている。一方、気を付けなければいけないところは、ネット上に流れるデジタルデータでどのようなビジネスモデルを選択するかという問題であると思う。単にデジタルデータを世に出せばビジネスになる、と言うものでもない。
1番目の選択は、デジタルコンテンツで純粋に収益を出すモデルである。一番真っ当なビジネスモデルであるが、まだ課題が多く、広く受け入れられている状況ではない。最近はコンテンツは無料で、挿入される広告でペイするビジネスモデルが注目されているが、コンテンツの価値を広告の対価として求めるのは、消費者に対し、ずっとコンテンツの価値を訴求しないことにならないか心配である。
2番目の選択は、本と棲み分けるモデルである。本からも収益を得て、さらにデジタルコンテンツを本の付加価値として認めるモデルである。よく言われる話が、本の在庫が切れて、販売終了になった場合、デジタルコンテンツで補完するという方法がある。しかし、今までの考えでは、売れ筋でなくなった商品を、わずかのアクセスのために、わざわざデジタル化して保存し、販売する手間の方が売上より大きくなってペイしないという論理だったと思う。しかし、このわずかなアクセスがLongTailなのである。アクセスは離散的で集中しないものの、時間軸で積分するとある程度の数になるコンテンツもあるのではないだろうか?逆に言えば、そういう売れ方の本はデジタルコンテンツで販売した方が、検索エンジンでひかっけてくれる分、販売方法として向いていると思う。Amazonでの事例は、本の販売においてLongTailビジネスが成り立つことが紹介されてるが、デジタルコンテンツではもっと顕著にLongTail現象が出るのではないかと思う。
3番目の選択が、デジタルをアグリゲーションやプロモーションに使う方法がある。しかし、これは最終商品として紙の本があり、これは現状の本のビジネスモデルから脱却するものではない。Web2.0には適応し現実的ではあるが、近視眼的な選択である。
理想型から現実型まで3つの選択の方法を書いたが、いずれもデジタルデータがないことには実現しないモデルなのであり、そういう意味で、JEPAニュース106号「出版社は自ら「デジタル原本」を保管して活用しよう」(紀伊國屋書店・黒田氏)に賛成である。出版や放送など、コンテンツをアグリゲーションして編集しメディア化する事業は、文化の創造事業であると同時に、蓄積事業でもあると思う。これは出版社が個別にやるよりも、出版、印刷、流通が共同で行う事業かもしれない。蓄積という面で、デジタルデータは最適であり、付加価値も生み出しやすい。蓄積することにより、著者、出版、印刷、流通、読者が様々なメリットを享受できる仕組み作り(ビジネスモデル)が急務であると言える。