文書の電子化に付いて思うこと
2002.05.01
日立製作所 尾鷲 仁朗
昨年からJEPAの理事を前任者から引継いでおりますが、また、某学会(以下、A学会) の企画担当理事にも選ばれ微力ながら学会の運営に参加しております。 A学会でも毎月理事会が開催されます。今年度(2001年度)の最大の課題は、「学会の 経済的バランス運営」であり、経費削減は勿論、会員数減少に対する歯止め策、学会 の活性化策等色々と考えられ、手も打たれてきました。その内、学会誌に掲載されて いる論文、研究会技術報告、年次大会講演予稿集等の電子化/CD-ROM化の検討について 私の感じていることを述べたいと思います。
昨年度まで、A学会でどのような議論が行われてきたのか私自身は充分に把握して おりませんが、少なくとも今年度は、「経費削減には論文等の電子化は必要」との前提 で議論が進められたように思います。電子化の利点として、費用の削減、多様な表現の 使用可能性(論文への動画像の埋め込み等)、保管の省スペース化、等が挙げられています。 しかしながら、「会員にとっての利便性、必要性の議論が充分に行われたのだろうか」 という心配がずっと頭の片隅に残っています。
話は変わりますが、隔週で発行される技術系の商業誌、雑誌Bがあります。厚さは7~8 ミリ程度ですので、年間で20センチ前後の厚さになります。参考になる記事が多いので、 私としては1~2年は手元に置いておきたいところです。
雑誌Bだけなら何とか数年分を 保管することはできるのですが、それ以外に、A学会誌、C学会誌、C学会の論文誌も貯ま って行くので、収納に苦労しているのが現状です。 雑誌Bは1年分の全掲載記事をCD-ROMにして販売しております。使用してみると、予想通り、 全文検索ができる点がとても便利でした。古い雑誌をひっくり返すのは特定の記事・技術に ついて調べたい時です。その調べたいキーワードを入力すると過去1年分の全記事から 記載個所が明示され、しかもその記事全体の印刷もできます。最新号は紙で届けられ、 どこででも読めますし、過去の記事についてはCD-ROMで全文検索ができますので、CD-ROM 購入に追加費用を要することを除き、非常に満足しています。
一方、A学会も50周年記念事業ということで、学会発足以来50年分の学会誌をCD-ROM化 して販売していますが、残念ながら、検索は目次部分しかできません。私自身、過去20 年分の学会誌を保管し、事ある毎に利用していますが、残念ながら限られた検索しかでき ないCD-ROMでは使い勝手が悪く、雑誌本体を廃棄する気にはなりません。
次に、即、電子化を目指している、年次大会の講演予稿集ではどうでしょうか。検討 された方法では、参加申込み者には年次大会前にCD-ROM版の予稿集を配布します。参加者 は、必要な部分を印刷して年次大会に出席することになります。残念ながら費用の点から 検索機能は限られますし、パラパラとめくって全体を把握することが困難な事、当日参加 の場合には事前に印刷をすることができない、等の欠点があります。事前にCD-ROMを入手 できなかった場合には、CD-ROMドライブ内蔵の重いノートPCを持参し、液晶ディスプレイ 上で予稿集を見ることになりますが、電源確保の問題が生じます。今のノートPCの多くは、 バッテリ駆動では数時間もてば良いところですし、聴講席に電源が設置されていることは まずありません。
小説等は最初の頁から順番に読むのが普通でしょうが、学術論文誌等を最初から順番に 通して読むことはまず無いでしょう。内容により読み方、検索等の利用の仕方が異なります。 電子化媒体、紙媒体の良い点、悪い点はそれぞれありますので、利用者の視点から良い案 を出す、新しい技術でさらに改善し、より使いやすいものを作り出してゆくこと、これが 我々の役割だと考えています。学会の取組みはレベルが低いと言われそうですが、皆様の ご経験を元にご助言頂ければ幸甚です。