ブロードバンド時代の電子書籍

2002.04.01

日本電気  田中 英俊

 インターネットの普及に伴い、電子書籍はどのように変化していくのだろうか?多くの 方がいろんな分析をしていると思うが、私なりの分析と電子書籍普及のための方法を書い てみたい。
 私の子供達は、皆本好きである。ジャンルは偏っているようであるが、良く読んでいる。 近くに充実した書店が無いのが不満のタネらしい。また、家のパソコンとインターネット もオープンにしているので、ネットサーフィン、ネットコミュニティ、ネットオークション などを楽しんでおり、調べものや材料探しはネットでやると決めているようだ。しかし、 ネットで音楽CDや本は購入したことはあっても、電子書籍をダウンロードした気配はない。 そもそもそういうサービスを知らないのかもしれない。どうすれば「この本300円なんだ けどダウンロードしていい?」と言ってくれるようになるのだろうか?
 本はデジタルコンテンツと比較すると表示品質と携帯性に優れている。また財産的な 価値観が強く残っていて、商品の再利用性も高い。中古市場もある。音楽がレコードから CDに移行したとき、レコードもCDも共に再生機器が必要という条件で、CDの方が音質、 携帯性に勝るとなれば、CDに移行するのは当然の流れであるが、本の場合は再生機器不要 で、携帯性があり、品質も高いとなれば、なかなかデジタルへの移行の流れが作りづらい。
 一方、電子書籍を誰に売るのかということを考えてみると、本を買わない人は、本の コンテンツそのものに興味が無い人なのでまず買わない。現在、本を買ってくれている人 に、「本の代わりに電子書籍を買いませんか」と言っても、その前に「その本はもう売っ てませんよ。だから」か「本屋で注文しても2~3日かかりますよ。だから」と言わない と、どうも説得力に欠ける。前者は、需要と供給の問題なのでどうしてもニッチ市場向け になる。後者は「じゃあ、2~3日待つよ」と言われればそれまでだ。本の情報は手に 入るかどうかが問題で、そんなに急がないものが多い。本のコンテンツは、デジタル化の 魅力はアピールできるが、デジタルである必要性は訴求しづらいということかもしれない。
 では、電子書籍の爆発的な普及は望めないのだろうか?電子書籍の商品価値を変える ことができれば、「みんなが知っている商品」に変身することができると思う。一見無駄 のように思えるが、「本を買った人に同じ内容の電子書籍も与える」が意外に理にかなっ ている。いろんな問題をクリアしなければいけないだろうが、本を買って読んでデジタル データで保管する、という読書スタイルが定着しないものだろうか。音楽CDとは違った、 本の持つ時系列的な価値の変化(購入して読む時の価値と、保管の価値)を使い分ける ことができるようになる。以前は、PCとインターネットの普及率が低く、表示デバイスが 未熟などの要因で、電子書籍はこれから花開く市場という捉え方だったかもしれないが、 これらの要因は徐々に解決されつつある。環境が変わる時には売り方も変わる。その両方 がそろった時にブレイクポイントが来るのではなかろうか。特にブロードバンドの普及が そのトリガーになるのは間違いないだろう。