小学館 鈴木 正則
だいたいのことは検索エンジンで調べることができる、ということをしばしば耳にしま す。私のPCもIEにはGoogleツールバーが常駐しています。実際よく使用しているし、 ずいぶんお世話にもなっています。しかし、このきわめてインターネット的な定番ツール では充たされない「知の世界」をネットワーク上に構築して提供していこうというのが、 いま私が取り組んでいるテーマ「ジャパンナレッジ・ドット・コム」です。
いわゆるインターネットの検索エンジンでもなく、ウエッブ・ディクショナリーでもな い、「知識発見・活用サイト」と謳ってJapanKnowledge.comを公開したのは2001年 4月17日でした。小学館の「日本大百科全書」「大辞泉」「プログレッシブ英和中辞典」 「プログレッシブ和英中辞典」「データパル」に加えて、「マルチメディア・インターネ ット事典」(デジタル・クリエイターズ・コンファレンス)、「bk1」(オンライン書 店提供の書誌データ)、「NNA:アジア経済情報」を串刺し(ワンルック)検索するこ とを基本とし、亀井肇さんの「新語探検2001」と「インターネット・ニューワード」 がデイリー更新のコラムとして配信されるというシンプルな形でのスタートでした。構築 ・運営は小学館の関係会社・ネットアドバンスで、この段階では、小学館以外から参加し たコンテンツは、bk1とマルチメディア・インターネット事典、NNAだけで、先行し て始まっていた三省堂「ウエッブ・ディクショナリー」を追う小学館版辞書検索サービと 受け止めた方も多かったことと思います。
しかし、私たちが考えていることは、それまでCD-ROMなどの電子出版物で提供してきた リファレンス・データをネットワークを介して提供しようということではありません。 「多面体としての知」をさまざまなリファレンス・データ、アーティクルを総合すること によって、検索エンジンが提供する玉石混淆の情報ではない、確立された、信頼できる レガシーデータをより身近に、より便利な形で提供しよう――これこそがジャパンナレッジ の原点であり、目標です。
一例をあげましょう。つい最近、あるコンサルタントの方から聞いた話です。仕事上の 必要から「国際協力銀行」を検索してみたところ、Googleではなんと6900件の結果が 出てくるが、そのほとんどすべては銀行サイドのホームページ、ニュースリリースによっ て占められる。それに対してジャパンナレッジでは百科事典・データパルから「国際協力 銀行」「海外経済協力基金」「政府関係機関」「政府関係金融機関」「日本輸出入銀行」 などの項目がヒットし、それだけではなく「NNA:アジア経済情報」から「国際協力 銀行、風力発電事業を調査」「国際協力銀行、高速道路建設で融資決定」「天然ガス開発 に8億米ドル、国際協力銀行が協調融資」など14件の関係記事が検索結果に並びます。 百科事典から国際協力銀行の概要、前身である日本輸出入銀行、海外経済協力基金につい ての情報、統合の経過など基本的な知識・情報が得られる。彼にいわせると、ここまでな ら普通の辞書引きでも可能。CD-ROMだってできる。しかしジャパンナレッジでは、基礎 知識が得られるだけではなく、国際協力銀行が現にアジアでどんな活動を行っているのか、 こうした点までが同じシステムの中で総括的に見ていける、ここに価値がある、といって くれました。
私たちが考えている「知は多面体」とはまさにこの一言に集約されています。いまや書 籍版をベースとした百科事典データはあくまでも狭義の百科事典です。これを含めたリフ ァレンスからコラム(アーティクル)、ニュース記事、書誌データなどの多種多様なレガ シーデータ総体が個々別々にではなく、統合されたシステムのなかで有機的に結びつけら れ、「知の多面体」を照らし出すとき、それこそが「21世紀百科全書」となるのではな いでしょうか。
ですから、スタート当時から私たちはジャパンナレッジに出版他社から参加していただ く道を用意し、準備してきました。この間、作家の猪瀬直樹さん、荒俣宏さん、ジャーナ リストの田中宇さんがそれぞれの特徴あるコラム・企画をもって参加してくれました。 そして、この原稿を書いている2月初めというのは、講談社(Encyclopedia of Japan)、 自由国民社(現代用語の基礎知識)、日経BP社(デジタル大事典)の三社の強力な コンテンツがジャパンナレッジで利用できるようになる、まさに秒読み段階なのです。 さらに、山根一眞さんが日経新聞で長期連載している「デジタルスパイス」も過去データ すべての電子化も完了して、スタートを待っています。平凡社の参加も決まっています。
「日本の知」を一か所に集めた「21世紀百科全書」をネットワーク上に構築するとい う目標に向かって、ジャパンナレッジは講談社・平凡社などの参加を得て、第二段階へと 踏み出しました。
http://www.japanknowledge.com にぜひ一度お立ち寄りください。