オンライン情報流通サービスへの思い
2001.06.05
NTT西日本 寺山 幸男
JEPAキーパーソンズメッセージ(20号)「オンライン書籍への思い」の中で、「本を 読む姿勢と習慣」に対する変化、その変化に対する慣性力、「少額(1円~数百円)の 情報料回収手段」の重要性について述べました。特に、読書スタイル(姿勢)に対する 変化には、どうしても習慣からくる抵抗があります。このスタイルの変化を少なくする には、端末をかぎりなく本に近づける必要があります。
先日、出版社に本の原稿を電子ファイルで送りました。文章はワードで、図表類はエク セル、パワーポイントで作り、各々別々のファイルで送りました。ある人に事前に読ん でいただくために、この同じ電子ファイルを送り、後ほど本の発行後、実物の本でも 読んでいただいたところ、その人の言うには、「内容が同じなのに別もののような “感じ”がする」といわれました。
これはいったいなぜだろうか?私の送った電子ファイルは文章と図表類は別々のファイ ルであり、本のように一覧で、あるいは見開きで同時に読めません。つまり、図をみな がら文章を読むことができないのです。製本されるときのレイアウト、割り付け等の “編集の力”でいかに読みやすく、見やすくなっているか、その効果がいかに大きいか を痛感しました。
(CD-ROM等で販売されている書籍は本と同じく編集されているので、この問題は 少ないとは思いますが。)
このように、汎用的な従来のPCでは本とはどうしても違和感があります。専用端末の E-Bookにしても、端末の重さ、表現能力(見開きという構図、印刷に近い写真、行間、 字詰め、任意の各種書体の選択性、文章と図表のレイアウト編集等)の工夫、向上が さらに必要です。
オンラインで小説なり、マンガなり、写真なりのコンテンツを見るという「オンライン 情報流通サービス」においては、コンテンツの内容によっては通信回線の速度も問題に なりますが、利用者としては、なにはともあれまず受信できる端末(PCなり、E-Book 専用端末なり)が必要となります。しかも一般的にはタダではありません。普及するに はコンテンツの質、量と端末の数がポイントとなります。すなわち、情報がなければ 端末を買わないし、端末がなければ情報を提供しません。したがって、一般的には鶏と 卵の関係になります。コンテンツについても、端末があれば見るという情報と、端末を 買ってでも見たいという情報とは違います。後者をキラーアプリケーションとよんで います。あれも見れます、これも見れますというコンテンツのバリエーションは端末が 既にあるという前提条件のもとでは意味の有るものであるが、端末購入契機、トリガー にはなりません。購入の動機にはキラーアプリケーションが必須です。
過去のオンライン情報流通サービスの世界をみますと、ダイヤルQ2,フランスのミニ テルは「はじめに端末ありき」でスタートし、普及して行きました。すなわちダイヤル Q2は5000万台の既存の電話機利用者を相手に情報で儲けるIP(Information Provider)が集まりました。ミニテルは国が電子電話帳データベースを用意して、ミニ テル端末500万台も国が無償で配布しました。そこへKIOSKという情報料回収 代行機能を付加して、IPが儲かる仕組みを提供したことにより、民間のIPが集まり ました。
TVゲームはゲーム機を誕生日プレゼントにできる、お年玉で買える価格(ハードル 低い)に設定しましたが、これといった面白いゲームソフトのない発売当初は普及しま せんでした。そこへ「スーパーマリオブラザーズ」という面白いゲームソフトがあらわ れ、普及のトリガーになり、以後次々と面白いゲームソフトが開発され、子供たちが ゲームソフトを交換しながら遊ぶようになり、TVゲーム機を保有しないと“仲間はず れになる”状況がおこりました。 iモードも端末ゼロからスタートしましたが、端末価格は小遣い程度で買える(ハード ルが低い)ようにし、若者を対象にして、既存音声端末の買い換えと「メール(最大の コンテンツ)」というアプリケーションと携帯性という便利さで普及してきました。 iモード端末を持っていないとメールでの連絡がとれず、“仲間はずれになる”という TVゲームと同じ状況が生じています。 また放送の世界に眼をやると、白黒TVは力道山のプロレス、栃若の大相撲、王、長島 のプロ野球、皇太子(現天皇)のご成婚、カラーTVは白黒TVの買い換えと東京オリ ンピック、衛星TVは湾岸戦争、アルベールビル、バルセロナ両オリンピックという ように、イベントあるいはキラーアプリケーションがありました。
一方CATV放送(コンテンツ製作に金がかかり過ぎるのと小規模エリアサービスで 採算難)、PCM音楽放送、目に見えるラジオ放送、文字(多重)放送にはこれといった キラーアプリケーションがなく、普及は今一歩となっています。
このように考えてみますと、「端末ありき」のダイヤルQ2,ミニテルは特別として、 オンライン書籍の普及には、“キラーアプリケーション”と“端末価格”がキーポイン トになると前々から理解してはいましたが、あらためてつくづく感じる次第です。