iモードの辞書データ

1999.10.01

三省堂(当時)  山田 蕃

 今年に入って、当社の辞書データをネット上で提供する経験をしたなかで、NTT DoCoMo殿のiモードへ提供して感じていることを1~2ご紹介しましょう。
 iモードについてはNTT DoCoMoさんが相当の規模の宣伝をされ、売れ行きなど についてもいろいろと記事が出たり、本が出たり雑誌で取り上げられたりしているので、 ご存じの方も多いと思います。
 スタートしたのは今年の2月22日でしたので、この原稿を書いている時点で7か月強 経過しています。現在は携帯電話のiモード対応機は4機種ありますが、スタート時は 全機種は販売されておらず、価格も秋葉原などで 32,000円ほどしていました。(現在は 同じ機種が 7,000円台で買えると思います)
 販売台数は、10月初旬の新聞記事では171万台(4機種合計)と書かれています。 「話すケータイから使うケータイへ」というのがNTT DoCoMoさんのキャッチ フレーズですが、提供されているサービスは、モバイルバンキング、チケット/リビング、 エンターテイメント、ニュース/情報、便利ツールなど13分野、サービス提供者数は 約100(8月現在)です。
 辞書のデータはこの中で便利ツールの中にあり、
 1) iモード利用者が無料で使える辞書――国語、英和、和英の3点
 2) 月額50円(3点合計)で使える辞書――大型国語、類語、歳時記
という構成になっています。
 これらの辞書についてのアクセス状況は、どの辞書が何回引かれたか、どの言葉が何回 引かれたかなどが日毎に集計されわかるようになっています。 この点は、辞書メーカーとして大変興味のあるところで、これまでの紙の辞書は、冊子 として売れた部数しかわからず、それがどのような頻度で使われているか、どのような 言葉が引かれるのかなどは全くわかりませんでしたが、この集計の結果を今後の辞書 編集に役立てたいと思っています。
 1)について意外だったのは、電子辞書は英和が最もよく使われるというこれまでの当社 の経験則に反して、国語辞書へのアクセスが一番多かったことです。国語を10とすると 英和が7、和英が6といった割合になります。 最もよく引かれる単語については、これもまったく意外な結果(9月分の集計)でした。 つまりブランク(検索語の入力欄に何も入れずに検索)での検索が最も多かったのです。 iモード機を買ったばかりのユーザーで引き方に不慣れな人が多く引いたせいと思われ ます。 2番目は「臨界」、4番目は「愛」、5番目は「あい」、11番目に「被爆」<被曝では なくて>などと続きます。 茨城県東海村の放射能漏れ事故が発生したのは9月最後の30日でしたが、9月全体の 集計で「臨界」が2番目に来ると言うことは、30日一日でいかに多く引かれたかとい うことになります。 紙幅に制限のあるコンパクトな辞書の説明が、非常時のユーザーにとって的確な説明に なったかどうか、データ提供側としては気になるところです。
 2)については、やはり大型国語辞典が引かれる割合が圧倒的に多く、歳時記などは もっと使われていいと期待していたのですが、現状では使われる回数がまだまだ少なく、 もっと宣伝が必要だと感じます。携帯電話の所持率が若い年代に大きく傾いているのも その理由と考えられます。
 また、日別では、月火など週のはじめがよく引かれる傾向などもわかり、いろいろと 面白い経験をしつつあります。