日本電信電話・現NTT西日本 寺山 幸男
書籍を衛星で送り、端末で読むというしくみを「電子書籍コンソーシアム」で検討 されていますが、小説等の文字数の多いものを端末(液晶?)で長時間みるというのは、 技術、システム上の問題もさることながら、むしろ読書姿勢、読書場所、目の健康から みて、習慣として、さらに文化としてまだまだ抵抗がありそうで、根づくには相当時間 がかかるのではないかと内心懸念しています。
そのようなわけで、いきなり文字数の多い小説等のようなペーパ型の書籍よりも むしろ音楽、カラオケ、映画、ゲームソフトのようなパソコン、電子機器で扱うCD型 の音声、映像、プログラムのほうがなじみそうな気がしてなりません。
ところで、日常生活の中で、数字、図形、写真の世界例えばギネスブック、白書、 百科事典、統計データのようなものでは、一部分(分野)だけを見たいというケースが 案外多いものです。たとえ有料であっても。今までは一部分をみるだけのために、また 一回限り(そのときはそう思っている)見るだけのために、「本」そのものを購入する というケースも案外ありました。しかも一旦買ってしまったら、将来また見ることも あるだろうと考え、なかなか捨てられないものです。(場所もとり、本の山になりがち です。)
子供がまだ小さい頃、約十年前になりますが、子供にせがまれて、ギネスブックを 買いました。確か「大リーグ記録」「プロ野球記録」「オリンピック記録」をみるため だったと思います。本は各種分野も含めて、全体で 600ページ余りのボリュームの ものであり、またいつか見る機会があるだろうと、保存していましたが、結果的には 他の分野を見ることはありませんでした。十年経った今では、この本は何の役にも立た なくなりました。(あえて言うなら、十年前のレコードと現在のレコードの比較には つかえるかも?)
そもそもギネスブックのようなものは「本」(活字)になった段階ではもう古いの です。始末が悪いのはどのレコードが未だ生きていて、どのレコードが既に塗り替え られているのかという区別さえもわからないことです。この種のものは時時刻刻と 更新されている最新のものを見るためには、オンラインしかなく、データの加工処理 という点でもペーパよりはパソコンのほうが向いています。
確かに大量のデータを多数に、一度にということになると衛星がベターですが、 必要な部分だけを検索して少量を個々人がその都度取り出すには双方向通信にならざ るを得ません。しかし今やインターネットで提供すれば済む話です。問題は料金の 回収です。
提供する側の論理としては、データベースの維持、更新にコストがかかるので、 無料では慈善事業になってしまいます。見る側は無料ならありがたいのはやまやまで すが、なんでもかんでも全て無料で 見たいというのは虫がよすぎるというものでしょ う。ギネスブックでいえば、 本なら 1000円(88年当時)もしますが、1分野 数十円ぐらいで、本を買わずに、オンラインで見れるようになれば、大助かりです。 この数十 円という "小額" を "多くの人" から回収する方法(手段)は簡単ではあり ません。
その方法の一つとして、インターネット経由で情報提供し、情報料を回収できる NTT提供の "Calle"(カルレ)というネットワークがあります。電話の請求書 に合算して請求し、支払ってもらう方式です。提供者も見る側も情報料金だけのため の請求、支払行為が必要なく、非常に簡便な方法です。以前の "ビデオテックス通信 サービス" のインターネット(TCP/IP)版ともいうべきものです。このビデオ テックスは情報料の回収代行サービスという観点から、ケイバ情報、音楽(MIDI) 情報の提供において、今でも人気があります。(フランスでは "ミニテル" の "キヨス ク" という サービスで大普及しました。)
この方式は "有用な" 情報を提供し、情報料金が "小額" でも簡便に回収できる メリットがあり、世の中のコンテンツ保有者が積極的に採用していただくと、利用者 としては非常にありがたい 話です。コンテンツ保有者が簡易に情報提供するための 「カルレ共同利用情報センター」も用意されています。
例えば、 百科事典もデジタル化され、本(昔書庫の百科事典はステータスの一つ でしたが、今やスペースの確保が大変)だと20数万円、CD-ROMでも数万円も します。これを必要時 オンラインで、1項目10円~数十円で見られるようにして いただければいいなあとも思っています。数万円のものを特定層の会員相当の数十万 人に売るだけでなく、さらにプラスとして数十円~数千円(100項目)のものを 不特定の数百万人にも提供するわけです。
現在でもインターネットでいろいろな情報が提供されていますが、無料(提供者 が儲からない)が多く、それゆえに、 データが断片的でまとまって(編集されて) おらず、さらにPRの傾向が強く、多すぎてわかりづらいのが現状です。(探すのに 苦労します。)やはり「ギネスブック」、「○○百科事典」というように本と同じ カテゴリーでまとめて提供していただけるとわかりやすくなります。
こういうことがどんどん進むと、あらゆるデータ特に"無料" では得られないよ うな貴重なデータさえも簡単にオンラインで入手できるようになります。そういう時代 (世界)がはやくくるのを楽しみにしています。
(最近は不正コピーがクローズアップされており、著作権は大事な話として、ガード 方法、追跡調査方法等対策がいろいろ検討されていますが、もう少し時間がかかりそ うです。コストもかかります。しかし情報料が安価なものですと、利用者としては コピー代さらに手間賃まで考えると、かえって高くつき、実質的にはコピーがバカバ カしくなります。他方提供者としては、安価でも情報に魅力があれば多数の人に見て もらえ、採算がとれ、事業として成り立ちます。)