昨年11月、コンピュータ関連の展示会Comdexで米国に出張した際、 長谷川会長、研究社の関戸さんと電子メールでちょっとした議論をしま した。日米の電子出版の相違についてです。 電子出版の定義にもよりますが、米国の状況は概ね以下の通りです。 辞書系では、Microsoft社のBook Shelfがほぼ市場を独占しています。 マルチメディア事典系では、同じくMicrosoft社のEncartaが独走して おり、Compton's、BritannicaそしてIBMなどが2週遅れで走っています。 電子本系では、Voyager社がまさしく、ひとり気を吐いています。 ゴッホやフェルメールといった美術物から、ロリー・アンダーソンの 音楽パフォーマンス物まで、高いレベルの電子出版物を作りつづけて います。 辞典系がBookshelfのみとなった理由は、ハッキリしています。Micro- soft社がMS-DOSの時代からBookshelfを提供し、Windows時代には、Word やOffice、Worksといったアプリケーションを買うと、Bookshelfがおま けとして付いてくるからです。 パソコンを買うとOfficeが添付されていますから、当然Bookshelfも入っ ています。 ということで、あっという間に電子辞書の市場を席捲してしまいました。 また、Microsoft社はBookshelfを「辞書という文化」ではなく「Word やExcelと同じソフトウェア製品」と考えていますので、「Bookshelfを 共通インタフェースとして、各種の辞書が検索できる」などという面倒な ことは行いません。 日本はどのような状況かというと、英和辞典だけでも、研究社、三省堂 、学研、旺文社、小学館、大修館など、書店の棚ほどではないにしろ、 電子辞書をユーザが選択することができます。電子ブックとEPWINGタイト ルだけでも300種類近くが販売されています。 私はコンピュータ業界の人間ですが、私たちの業界は、「米国のテクノ ロジーを日本でいかに応用するか」が主な仕事です。何事も米国に見習っ ていれば事足ります。 ところが、電子出版業界は、どうも、日本が世界の最先端を走っている ようです。 日本でこれだけ電子出版が盛んになった原因は明確です。それは日本 電子出版協会、EPWINGコンソーシアムそして電子ブックコミッティの活動 です。JEPAが出版、印刷、コンピュータ、ソフトウェアといった電子出版 に関連する業界を横断的にまとめ、EPWINGコンソーシアムがテクノロジー を提示し、電子ブックコミッティがその普及を推進した成果です。 では、これから日本の電子出版はどうすべきなのか。CD-ROMに加えて、 インターネットというとてつもない媒体が登場し、Web Publishingという 言葉も定着しつつあります。JEPAは情報提供と交流の機関として、より 強力な仕組みが必要だと感じています。EPWINGはWindowsとインターネッ トの時代に即した新しいテクノロジーを提示する時期に来ました。電子 ブックはVAIOテクノロジーなど、斬新なハードウェアへの進化が期待され ています。 長谷川さんと関戸さんにお送りしたメールをちょっとアレンジして、 結びとさせて頂きます。 「日本の電子出版の将来は、JEPA会員各位の双肩にかかっています。 先達はいません。皆さんが世界のトップを走っているのです。」
日本の電子出版
1998.01.01