電子出版のデスクトップ22

NET書店への期待


 アマゾンコムの日本上陸以来、本のインターネット販売はすっかり定着した感がある。競争激化〜淘汰の段階という人もいるが、長い目で見ればネットのユーザーはどんどん増えてくる。まだまだ伸びる世界だろう。ある老舗書店のWeb上での売上はリアル書店の支店1軒分あるというからたいしたものである。
 たしかに本がすぐ手に入るのは魅力だ。どんな大型書店でも現品を揃えておくには限度がある。数多く出る本ならどんな店にもあるが、小数部の本を手に入れるのは現在のリアル書店ではたいへん困難だ。送料を支払ってもネット書店で買いたくなるのは当然、送料といっても大型書店に行く交通費を考えればたいした事はない。
 それでもバーチャル書店で本を買うには少し抵抗がある。出版社に送られてくる読者はがきで「本を選んだ理由」を見ると十中八九「書店の店頭で見て」である。店頭で現物を手にとり、類書と比較した上で買う魅力はとうていネットにはかなわない世界だろう。
 単に欲しい本が手に入るでは、この魅力に対抗はできない。ネット書店という存在が自立するにはより魅力的なサービスが求められる。本を検索して題名のリストを示すという単純な仕組みを提供しているだけなら、閉架式の図書館と同じこと、バーチャル書店とは単なる機械に過ぎなくなる。書店はもっと人間の匂いがするものでなくてはいけない。
 書店は今流の表現を使えばプッシュ媒体なのだ。店の前には発売したての雑誌が積まれ、店に入ると企画モノのフェアが客を迎える。棚の前に立てば類書が並んでいて、平台には良く読まれる本が置いてある。書店そのものが一種の表現媒体だ。だから人は書店へ行く。
 書店の本当の楽しさとは欲しい本が買えることではない。自分の知らない世界を発見できること、新しい世界を書店から教えてもらえることだ。教えてもらう先生はやはり血の通った人間がいい。
 書店員の新人研修の場として有名なH屋書店は、店内から出版社お仕着せのポスター類をすべて排除し、店員の手書きポスターだけを展示する。手書きのポスターは印刷されたポスターよりは稚拙であろう。でも売っている人間の存在を示すこと、それが読者にとっては魅力なのだ。人間が行動するためには人間の存在が必要だ。
 だからやはりリアル書店がいいと言いたいのではない。バーチャルな書店でこそそれが実現できると思っている。
 大資本や全国チェーンの書店だけがネット上で書店をやれるわけではないのだ。そういった百貨店的書店も必要ではあるが、まったく新しい書店が登場できることにネットの素晴らしさがある。
 金太郎飴書店という蔑称を返却しよう。ネットを使えば個性的な書店がたくさん存在できるはずだ。世界に少ししか読者がいない世界、でも自分が好きな世界、みんなに読んでもらいたい世界。それを取り上げ、ネットの店頭に並べる。そんなことが可能になるのがネットワークだ。
 テーマに特化した「専門書店」の夢は古くから語られてきた。専門書店への取り組みも何度か行われてきたが、そのほとんどは成功していない。しかし今や専門書店を妨げてきた空間の制約はなくなった。自分自身の個性に思いっきり特化した書店でも世界中からお客さんがやってこれる。
 本屋の主人とはもっとも信頼できる知識の世界への案内人であることを読者は期待している。頑張れ全国の書店。
『情報管理』Vol.43 No.11 Feb. 2001 より転載

BACKNewsletterのTopに戻る
Homeトップページに戻る