キーワード設定の現場から(13)

寿限夢寿限夢の長助さん

 落語に「寿限無」という話しがある。生まれた男の子にありがたくて長い名前をとせがんで付けたもらった名前が「寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲行末、風来末、食う寝る所に住む所、やぶら小路ぶら小路、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助」。
 これは落語の世界の話しだが実際の世界でも法律や条約の正式名称がやたらに長い。
 「男女雇用機会均等法」という法律がある。これは通称であって正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」という。
 こんな名称は誰も知らない。知っていたとしてもいちいち正確に書いたり言ったりしていたら日が暮れる。そこで適当に縮めたものが流通する。この法律の場合は「男女雇用機会均等法」が通称として定着したようだ。
 名称中の語をつなげて略称を作るのは常道だが、よく見て欲しい「福祉の増進」という重要な語が忘れられている!
 さて国際社会の条約でも長い名称は当たり前だ。環境問題で「モントリオール議定書」と称されるものは「オゾン層の保護に関するウィーン条約に基づくオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」と経緯を長々述べまくる。
 「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」などと、盛り沢山で何を言っているのか即座に判読しかねるユネスコの勧告もある。
 「憲法」「民法」「刑法」「商法」。古い法律名は今と対照的に簡潔そのものだ。長々とした名称に内容の空虚さを感じるのは私だけだろうか。
 ところでこんな長いものでなくても日本語には漢字の略語がたいへん多い。
 たとえば「経団連」は「経済団体連合会」、「日経連」は「日本経営者団体連盟」、「全農」は「全国農業協同組合連合会」といった具合。通常は略称のほうが使われるので正式名称は自信のない方も多い。「巡航ミサイル」を正確には「空中発射巡航ミサイル」というなんてことは専門家以外は知らない。
 お隣中国に行くと略し方が日本と少々異なる。「全国人民代表大会」が「全人代」というのは馴染みのあるパターンだが、「中国共産党第十四回全国代表大会」を「十四全会」、「中国共産党第十四期中央委員会第五回総会」を「十四期五中全会」と略されると何とも不思議な感じがする。
 検索キーワード設定の話しに戻ろう。略称が通用している語では正式名称をキーワードとしてもまず引かれない。かといって略称だけで正式名称を省略すると、正式名称で引いたときに検索できないので問題だろう。正式名称と略称の両方を採ることになる。
 ところがこの略称というのが曲者だ。「全国農業協同組合連合会」の略称は通常「全農」だが、それ以外にも「全国農協連合会」「農協連合会」「農業協同組合連合会」などといろいろ考えられる。どこまでフォローしたらよいか頭を悩ますところだ。
 ところで表題の「寿限無寿限無の長助さん」は私が勝手に作った略称だが。この人の名前に至っては正確に言えたら宴会の瞬間芸程度の価値はある。もしこの名前をキーワードとして設定しなければならないとすれば、どんなキーワードを設定したら良いだろうか?いやはや大変だ。

『情報管理』Vol.41 No.3 June 1998 より転載


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