JEPA委員会に入ろう!
第4回 電子図書館委員会の紹介インタビュー

電子図書館に関する各種研究や提言を行う
『電子図書館委員会』とは?

日本電子出版協会(JEPA)では、現在7つの委員会で電子出版に関わる活動を進めております。
皆さんに委員会へ参加いただけるようにJEPA委員会紹介企画の第4弾として、電子図書館に関する各種研究や提言を行っている電子図書館委員会をご紹介いたします。

本日は、委員長であり、JEPA顧問の三瓶徹(さんぺいとおる)さんと、委員の柳明生(やなぎあきお)さんにお越しいただきましたので、電子図書館委員会について色々とお伺いしたいと思います。

名称:電子図書館委員会
委員長:三瓶徹(JEPA顧問)
メンバー:14人
活動頻度:月1回
活動内容:小中学校を対象とした電子図書館構想の提言と推進を行うとともに、ポイントとなる事柄の現状分析やセミナー、見学会を実施する。

委員長の三瓶徹(さんぺいとおる)さん、委員の柳明生(やなぎあきお)さん
左・三瓶徹さん 右・柳明生さん

子どもたちの読書格差のない世界を目指して

――電子図書館委員会のメンバーや活動内容、活動頻度などを教えてください。

三瓶:2008年に委員会を設立し、毎月1回(原則として毎月第2木曜日の17時~18時半)、コロナ以降はZoomベースで開催しています。
それ以前はリアルで定例後に懇親会を行っていました。実は懇親会でいろいろなテーマについてざっくばらんな話ができるのが楽しみでもありました。懇親会を復活させたいですね。活動テーマは図書館の電子化に関するビジネスモデルなどの課題について議論しています。

主に

・小中学校を対象とした電子図書館構想の提言と推進
・電子図書館サービスにおいてポイントとなる事柄(アクセシビリティ、電子コンテンツのID・書誌フォーマットなど)の現状分析と提言
・電子図書館をテーマにしたセミナー・見学会の実施
・その他、目的達成に必要なこと

などについて議論していますが、最近は小中学校向けの学校デジタル図書館に注力しています。電子図書館委員会は、『誰もが居ながらにして世界中の本が読めるようになる』その夢に向かって、皆が納得できるビジネスモデルを推進する、というのが目標です。

柳:委員会立ち上げ当初は国会図書館が電子図書館構想を掲げていた時期だったので、JEPAとして電子図書館に関する提言書を発表したり意見を述べるというようなことを中心にやっていました。

――今は小中学校をメインとした学校デジタル図書館を進められていると。ところで学校デジタル図書館とは具体的にはどういったものなのでしょうか。

三瓶:文科省が定めた「学校図書館図書標準」では大きな学校はたくさん本を用意して、小さな学校は少しでよいということになっているんですが、子どもたちにとってはとても不公平なことですよね。電子図書館なら、どの学校も同じ一つの大きい電子図書館でたくさん本が読めるんです。これが学校デジタル図書館の構想なんですね。

つくろう!みんなの学校デジタル図書館サイトイメージ
つくろう!みんなの学校デジタル図書館
https://www.jepa.or.jp/digitallibrary/

関わる人みんながハッピーになれる仕組みを考えよう

――学校デジタル図書館の普及を目指し始めたきっかけなどはあるのでしょうか。

柳:当時、公共の電子図書館サービスについては「紙の本が売れなくなる」「本屋が無くなる」などの意見があり、出版社や著者の理解を得るために色々なハードルがありました。しかし教育目的に限った学校デジタル図書館なら目的も明確で理解を得やすいだろうから、まずは学校デジタル図書館からはじめようかということがきっかけです。また学校デジタル図書館の説明でもありましたように、紙の本に加えて電子があれば離島や地方など小さな学校の地域格差を埋めることもできるのではと考えました。

三瓶:子供向けの本は大人向けに比べて数として少ないため、こちらを先に電子化して、それを基に大人の本の電子化を推進した方がいいんじゃないかという意見もありました。

――電子図書館委員会は文科省などをはじめ、様々な行政機関や出版社などとコンタクトを取られていますが、どのように受け止められているかや苦労したことなど教えていただけますか。

三瓶:今お話ししたように学校デジタル図書館構想とは単純な話なのですが、なかなか分かってくださる方が少ないんですね。学校図書の方は「やはり紙の本が大好きで」という方が多く、司書の方も雇用問題の話が……こういう話はしない方がいいね(笑)

柳:JEPAならではと言うか電子図書館委員会として一貫しているのは『出版社が持続可能なサービスになるかどうか』という観点から委員会で様々な意見を出し合っているところですね。単純に「教育格差があるからその格差をなくそう」というより、電子図書館はもちろん、これに関わる図書館関係の方、司書の方、著者の方、出版社の方……みんながハッピーになれるのはどのような仕組みなのか。それを考え、推進していこうという理念はずっと共通して持ち続けていると思います。

――学校デジタル図書館構想の現在の進捗状況を教えてください。

三瓶:文科大臣と直接お話したのですが、文科省は民間とのからみもありますので直接的には動きにくいことがわかりました。当面は徐々に浸透させることを目標に学識経験者やサービス各社、児童書出版社などと文科省で検討の場を作れないだろうか、と考えています。そのために『地方の学校は困っている』という現場の意見を集めています。

――学校デジタル図書館の今後の課題を教えてください。

三瓶:始めてすぐにやめてしまうという訳にはいきませんから、できる限りきちんと運営するために本がたくさんなければ困ります。それも妥当な価格(利用許諾料など)でなければいけない。それが読まれることでお金がきちんと著者や出版社に流れ、その結果新しい本をどんどん書いてもらうという良い循環が生まれないとまずいんですね。例えばアメリカの大きな企業が独占して、「とにかく安くしてみんな読ませてしまえ」というようなことでは長続きしない訳です。ですから『長続きするにはどうすれば良いのか』というような観点で色々な方にご協力願おうという風に思っております。デジタル社会ではGAFAに代表されるように『社会基盤となるものは1つあればよく、1位になるものが市場を総取りする』構造となり、社会規範すらも大きく変容しかねない危うさも持っています。ですので我が国の実情に合った新しいモデルを構築する必要があると思っています。

柳:このような話はJEPAの中だけで話していても中々進むものではないと思っているので、今後は図書館関係の方や司書の方々などJEPAの中にはいない様々な人達の意見を聞きながら、世論と言ったら少し大げさですが、そういう動きを外に対して働きかけて理解を得ていくことが課題になるかと思っております。自治体や学校を絡めての電子図書館活用事例も少しずつ出てきているので、そのようなところにヒアリングなどの調査を行うこともこれからの課題として現在進めているところです。

リアルな体験が実感を生む見学会

――今までの委員会活動の中で特に大きな実績となったものはありますか。

三瓶:これまで公共図書館や国立国会図書館の電子化に関して提言や提案活動を行ってきました。

※電子図書館委員会資料
2010/02/05 国立国会図書館に対して電子書籍配信構想に関する「日本電子出版協会案」を提案
2012/10/18 「公共図書館における電子図書館推進のための留意点」提案
2017/03/24 国立国会図書館による有償の電子書籍・電子雑誌等の収集と閲覧提供についての提案
2021/02/24 緊急提言 今こそ国は学校電子図書館の準備を!
2021/09/08 「学校デジタル図書館」の特設サイトをオープン

三瓶:国立国会図書館に長尾構想というのがありまして、納本されたものをバス代くらいで読めるようにしようという話に対して、出版社が国立国会図書館による事業化OKと言ったものとビジネスとして出版社自らでやりたいものとで棲み分けたほうが良いのではという対案を長尾さんに直接持っていったりしました。
(※長尾構想 https://www.jepa.or.jp/ebookpedia/201703_3489/

柳:今までで一番聞きに来てくださった方が多く集まったセミナーも長尾さんを講師として招いた回でしたね。

三瓶:それと米国の大学図書館の司書をお招きして、米国の電子図書館事情などをお話ししていただいたこともあります。
日本の司書とアメリカの司書の待遇の違いや、大学のことだけではなく地元の公共図書館の電子化についても含めた全般についてお話いただきました。

――電子図書館委員会に参加して良かったことを教えてください。

柳:委員会活動として何度か見学会のようなことを開催しておりまして、社会科見学みたいで楽しかったですね。桜美林大学が大久保に新キャンパスを建てた時に、本のない図書館が話題になりました。学生同士の対話やコミュニケーションができるリラックスした空間の中にモニターがあり、電子書籍をライブラリーとして活用するような形式の場をみんなで見学に行ったり…そういった活動は面白かったですね。
(※桜美林大学新宿キャンパス ナレッジクラウド:https://tourmkr.com/F1meYvKxcD/31063906p&196.5h&86.27t

三瓶:国会図書館も行きましたね。

柳:週刊マガジンが創刊から全部バーンと並んでる圧巻の景色とか、ああいったものを見ると紙の凄さを感じますよ。
(※国立国会図書館広報動画:https://youtu.be/PAo6_Rp0w_Q

三瓶:あとは、元々委員会はみんなボランティアで集まってるわけだから、やっぱり楽しくなきゃいけない。楽しいのはやっぱり宴会だよなって(笑)いつも委員会の後の飲み会が非常に盛り上がったんですよ。

柳:違うんですよ、委員会も盛り上がるんですよ。その場で意見が収集しきれないから宴会に行ってまた盛り上がって……でもそれが電子図書館委員会の楽しい雰囲気で……。

――委員会にはどんな方々が参加されているのでしょうか?

柳:メンバーは、14名でJEPAの委員会の中では多い方です。出版社、印刷会社、電子配信会社など出版関連のメンバー以外にも、元国立国会図書館で電子化事業を推進してきた方やIT企業の方など様々です。

――電子図書委員会で現在委員長として活動されている三瓶さんと、委員をされている柳さんの経歴や普段のお仕事についてお聞かせいただけますか。

三瓶:日立製作所で音声認識や手書き入力を研究していたことがあります。ある日突然Deep Learningが出現し、一気に音声認識が進んだと思ったらLLM(大規模言語モデル)が出て、一気にAIも進んで様変わりして、とんでもない世界になってしまったなと。既に一線からは引退して、今はスタートアップのベンチャーの取締役として専ら聞き役になっていますが、それでもやはり昔から気になっている電子書籍関連の仕事を今でも続けております。

――では、次に柳さんの普段のお仕事についてお聞かせいただけますか。

柳:元々は電機メーカーにいた頃に電子書籍コンソーシアムに参加しておりまして、三瓶さんやイーストの下川和男さんともその頃からのご縁です。その後、電子コミック配信会社で現在では当たり前になった購入した電子書籍をクラウド上の本棚に置くサービスや全巻まとめ買い機能などを開発・提供したりしていました。
EPUB日本語仕様の策定や、その後のW3Cでの国際標準化活動にも関わってきています。コミック配信会社に勤めていた当時、電子化についてご理解いただくために色々な漫画家さんたちとお話しする中で、里中満智子さんという漫画家さんが『手のひらの図書館』という表現をされました。「これからの世の中は本が電子化されて、手のひらの中に全部の本が乗っかっていくんだ」と受け取ったのですが、その言葉が非常に印象深くて今でも委員会に携わっております。

――最後に、電子図書館委員会では今後どのような人の参加を期待していますか。

三瓶:若い方に参加して欲しいですね。

柳:学校デジタル図書館については関係者との議論だけでなく情報発信していくことも大事だと思っています。ですので、今までとは違う発想で、違う角度から発信していけるような人にも期待しています。

――電子図書館委員会について色々とお伺いすることができました。委員長の三瓶さん、委員の柳さんありがとうございました。

委員長の三瓶徹(さんぺいとおる)さん、委員の柳明生(やなぎあきお)さん

JEPAへの入会・委員会のへの参加を検討されている方は、下記よりご連絡いただければ事務局よりご連絡を差し上げます。

お問合せフォーム:https://www.jepa.or.jp/contact
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インタビュアー JEPA広報員会・三田桂子(萩原印刷株式会社)
編集 JEPA広報員会・上田平結城(株式会社パピレス)
※この文章はインタビュー音声を元にFaster-Whisperで文字起こしされています。