日本電子出版協会(JEPA)では、現在7つの委員会で電子出版に関わる活動を進めております。 皆さんに委員会へ参加いただけるようにJEPA委員会紹介企画の第3弾として、著作権に関する調査・研究を行い弁護士を講師に迎えた実務的なセミナーを企画する「著作権委員会」をご紹介いたします。
本日は、委員長の清水隆(しみずたかし)さん、委員の横山明彦(よこやまあきひこ)さんにお越しいただきましたので、著作権委員会について色々とお伺いしたいと思います。
名称:著作権委員会 委員長:清水隆(JEPA事務局長) メンバー:8人 活動頻度:奇数月の第2水曜日 活動内容:電子出版の著作権に関するアンケートや出版社の知りたい課題に対する調査を実施するとともに、弁護士によるセミナーの開催を行う。
――著作権委員会のメンバーや活動内容、活動頻度など教えていただけますでしょうか。
清水:委員会を開くのは奇数月の第2水曜日です。ZOOMで行い、セミナーの企画やセミナー実施のこまごまとしたことを決めています。
――今までの委員会活動の中で特に大きな実績となったものはありますか?
清水:公共図書館におけるCD-ROM付き書籍の貸出について、20年以上前に手掛けてから現在でも使い続けているものがあるんですよ。90年代末期にCD-ROM付き書籍が頻繁に刊行されるようになって、それを貸し出しして良いものかどうかという図書館からの問い合わせがJEPAに対して増えてきました。そこで当時の委員長である講談社の筒井さんが中心になって図書館に対してアンケートを実施したところ「ロゴマークがあったら良い」という結果が出ましたので、ロゴデザインを作成しJEPAのウェブサイトからダウンロードして使えるようにしました。 今でも時々「使いました」という報告が大手出版社さんからあります。
※JEPA公式サイトの最下部バナーからアクセス可能(https://www.jepa.or.jp/jmark/CDlogo.html)
広報委員:図書館法で本は貸して良いと決まっていますが、CDは別の処理になりますよね。
清水:どう扱えば良いかわからないから、出版社が意志表示をして欲しいという訳です。
――現在でも使用されているロゴデザインの作成は著作権委員会にとっての大きな実績ですね。では次に最近の活動内容やセミナーのテーマなどを教えていただけますか?
横山:やはり最近はAI絡みのテーマが著作権委員会としては非常にタイムリーです。2018年の著作権法改正でAIが日本で使われる素地のようなものができたんですね。そこで出来た規定が使いやすいものだから今AI天国のようになった日本に各国のサービスが入ってきているというところがあります。 それはそれで良いのですが、実際にトラブルが起きた時にどう対処すればいいのかという部分については、そこまで細かいところが決まっているわけではありません。 弁護士の先生方と、どういう指針で出版社が動いていけばいいのかとかいうことを明らかにしていければと思っています。先生方もまだ探り探りなところがあるので、確定した答えを皆さんに提示できるわけではないのですが、一緒に考えていくというスタイルで最近は続けていますね。
広報委員:日本の著作権法では、分析のためのデータの蓄積やデータベース化はOKですよね。諸外国はそう簡単にはいかない。ただ正直に言って条文制定当時はAIのことを想定していなかったでしょう。単に検索エンジンや、例えば教育系出版社で言えば受験の中でどんな単語が多く使われるか分析する、それはいくらでもやって良いんです。ただし終わったら使用したデータは捨てなければなりませんが。そのような日本の状況が蓄積したデータをAIの学習用として活用しやすい法的に守られた環境にしています。
横山:まさか、いきなりここまでの生成AIが出てくるとは思っていなかったでしょうね。
清水:だから著作権法をもう1回改正するという要求もあります。今のところは「バックエンドで分析することはやっても良い」ということになっていますね。
――難しいところですね。今後そのあたりのこともセミナーで扱っていくのでしょうか。
清水:同じテーマでも弁護士の先生によって切り方が大分違うんです。講師をお願いした池村聡先生は出版社にとっての実務的な対処法として『AIに関するガイドラインを作っておく』など出版社の担当がどうしたら良いのかを色々教えてくれました。今企画しているセミナーでは、知財の大家であるJEPA顧問弁護士の松田政行先生にコンピューター技術と著作権の問題を歴史的に追ってAIまで持ってくるという歴史からの追跡をお話しいただく予定です。
横山:松田先生は、Googleなどデジタル・プラットフォームの話をずっと追ってきた方です。アメリカに攻勢をかけられてきた日本の状況が、2018年の法改正や今回のAIなどによってガラリと変わるのではないのかといった視点をお持ちのようで、セミナーのテーマとしてもなかなか面白いのではないかと思っています。
――セミナーのテーマはお願いした講師の先生から内容を広げていく形なのでしょうか。それとも著作権員会で大きめのテーマを設定して、そこから講義を進めていただくのでしょうか。
清水:それぞれの分野で得意な先生がいらっしゃるので、それによって大体のテーマが決まっています。
横山:同じテーマの中でも、例えばコンピューターの歴史などの方面が得意な先生に対してはそういったテーマでの切り口をいくつか考えて「こういったテーマでどうでしょう」という形で調整したり、打ち合わせの中で先生からテーマの提案などがあれば、そのテーマで深掘りしていただいたりして決めています。
――やはり今注目しているテーマとしてはAIになるのでしょうか。
横山:著作権というものが世の中で話題になることも最近は多いですが、AIというのはあくまで今爆発した一つのトピックであって、その下地にあるのはSNSなど個人が著作物を露出する機会が10年前に比べて段違いに増えていることだと考えています。著作権の侵害が身近で一般的なテーマになってきたからこそ、そこに注目が集まっているのでしょうね。AIが特に目立っているのは、「より簡単にものが作れるツール」だからということかと。
――自由に創作したり発表出来る機会が増えたことにより著作権の問題もまた目立ってきているので、委員会としての活動も今後ますます活発になりそうですね。そんな著作権委員会自体についてお伺いしていきたいと思いますが、委員会活動の中で特に印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。
清水:「電子書籍を考える出版社の会(eBP)」と共同で4月に入社した新入社員向けに入門セミナーというものを毎年開催しているのですが、入門というからには新しい人が聞きに来るかというとそうでもなく、年に1度これを聞いて著作権についてもう1回復習しようという年配の方も多くいらっしゃったりしていますね。
――それは基礎的な内容ということでしょうか。
清水:最近の動向というのをまず第一回目にやるんですよ。例えばAIが注目されているというような話をして、それから基礎に戻って2回目から著作権法の基礎というものを2回にわたって行う全3回構成になっています。
――セミナーには毎回どれぐらいの方が来られるのでしょうか。
清水:ここ3年ほどずっとオンラインですが、AIが流行るまではいつも500人ぐらいで「こくちーずプロ」に登録されていたんですよ。そんな中、AIが爆発して定例会委員会のセミナーですが1000人というところまで到達しました。
広報委員:JEPAの受付システムが最大1000人ですね。
清水:その時に受付システムの上限が1000人だと初めて分かったんです(笑)。一応上限は1000人なんだけど、YouTubeでも中継をしているので何人来ても良いんです。
横山:こういったセミナーに無料で参加できるというのは非常にお得だなと思います。色々な団体が同様のセミナーを開催していたりするんですが、やはりどうしても一社あたりの参加人数が決まっていたり、それなりの参加費が必要だったり……。その点著作権委員会のセミナーはYouTubeで配信している以上、見ようと思えば誰でも見られるというスタンスでやっています。
――入門セミナーも無料なんでしょうか。
清水:今は無料でやっています。
横山:2018年くらいに著作権員会でJEPAの関係社や出版社の方に著作権絡みの調査をおこなった際に、半分くらいの会社は自社で体系的な著作権教育はしていないという回答がありました。これはなかなか厳しい状況だと個人的には思いますが、そういう意味でも無料でこういったセミナーが見られることは大事な機会なんじゃないかと思っています。
――会社としても、著作権について理解を深める必要性に気付くきっかけにもなるかもしれないですね。では、先程もお聞きした通り著作権委員会の活動は現在オンラインでされているとのことですが、直接集まっての会議などはされているのでしょうか。
横山:コロナで無くなりましたね。それ以前はみんな集まっていたんですが。
――どのような方が参加されているんでしょうか。
清水:現在メインで活動しているのは4名ほどですね。翔泳社で編集管理や法務に携わっている田岡孝紀さんは本日も参加する予定だったのですが、多忙により欠席されています。著作権委員会で弁護士の方と仲良くなって、会社の方のお仕事にも繋がっているようです。なので、最近の弁護士先生との連絡は田岡さんにお願いしていたりします。
――著作権に関する調査や委員会活動の中で、特に面白かったことや印象に残ってるようなことがあれば教えていただけますか?
清水:以前に委員長だった講談社の筒井誠さんは腰掛け稲荷という稲荷神社の宮司なんですよ。で、僕が翔泳社にいたころPMP(プロジェクトマネージメントプロフェッショナル)の資格本を出したんですね。せっかく宮司の方と知り合いになったので、書籍にプレゼントをつけたいっていう意見があったときに合格お守りを作ったんですよ。営業からは最初「Amazonで使う」という話もあったらしいんですけど、実際に作って翔泳社のショップでそれをつけて売ったら全部無くなりました。ちゃんと宮司が大麻(おおぬさ)振ってお祓いして……。
一同:(笑)
――今後調査していきたいテーマなどはありますか。
横山:ここ数年は著作権法がほぼ毎年のように改正されていて、AIが使いやすくなったり、それとは別に権利処理などが今後もしかしたら法改正で楽になるかもしれないような流れもあるんですね。出版社としては著作権というと手続きが面倒くさいなどの声も調査する中で聞こえてきていたりもしたので、そのあたりが楽になっていくと、そこがネックで電子書籍を作らなかった方々が本当に動き出すのか、などというところを見ていければと思っています。
――法律なので仕方ないですが、権利処理がネックで電子化をされていなかった方々ということでしょうか。
横山:今まで電子化していない大きな理由として挙がっていた権利処理がもしもう少し楽になったら本当に電子化に動くのかというところです。
広報委員:著作権法ほど頻繁に改正されるのは道交法くらいしかないんじゃないかな……。
清水:昔は変わんなかったよね。
横山:今は毎年改正で……。
広報委員:それはデジタル化が進んでから加速したんでしょうか。
横山:それは確実にデジタル化してからですね。
清水:(著作権を)利用してビジネスを起こそうという方向に変わっちゃった。
横山:ただ法律は新しいビジネスが生まれるのを促そうとして変わっていっているんですけど、それに乗っている出版社がどれだけあるかというとなかなか無くて、逆に法律が先行しているように少し感じられますね。
広報委員:著作法は著作権者を守ろうという思想の法律なんですよ。だから基本的には使い辛くなっているわけです。でも世の中的には「もっと使っていこうよ」という動きだから色々変えざるを得ない。
――著作物を守っていかなければならない部分もあるし、でもそれを使ってもらえないとお金が貰えない。それこそ先程の電子化されない方などの作品は紙だけになって、今の情勢とちょっと合わなくなってきていると。
横山:でも昔ほど電子化は絶対ダメという著者は減ってきたようにも思います。人々の中の意識というものも変わっていくから、それに伴って法律も更に緩くなっていくという。
――有名な著作物でもどんどん解放されてきているように感じますね。では、委員の方が普段どういったことをされているのかをお聞きしたいなと思いますが、横山さんの普段のお仕事などお聞かせいただけますか。
横山:法務グループで著作権などの知財を担当している時に著作権委員会に入ったんですけど、その後異動があり、今は財務会計をやっています。ですので今は直接の業務としては著作権はあまり関係ないんですが、ずっと法改正の大きなテーマとしてあった『学校の中で自由に著作物を使えて、その代わりに補償金を払う』という制度が去年ぐらいから動き出したんですよね。動き出したところまでで法律を作る側の方々の仕事は終わった感があるんですけど、制度が始まりお金が動き出す段階になると、財務会計の方の守備範囲に入ってくるわけです。実際に今年はそのお金が振り込まれてきたりしたんですが、果たしてこれをどう処理するのかっていうのは、なかなか…。今まだ制度が動き出してすぐなので支払先の数も少ないですが、どんどん増えていくとどこかで回しきれなくなるんじゃないのかなとか、ちょっと心配しています。こうして実務関係者の視点から法律の方を眺めるとかそういったことが出来る立場にあるので、それはそれでなかなか面白いなって思っています。 (参考:授業目的公衆送信補償金制度 https://sartras.or.jp/seido/)
――今は著作権のお仕事を変わられたということですが、今も著作権委員会に入っていて良かったと思われることはありますか。
横山:異動した後、仮にこの委員会に入っていなければ自分はもう著作権のことを勉強する機会もなくなるだろうと感じていたのですが、出版社にいる以上は持っておいて然るべき知識であるとも思うので、そういう意味で今も在籍させていただいているというのは、モチベーションにもなりますし、とてもありがたい話だと思います。
――最後になりますが、今後どのような人が著作権委員会に入ってくれることを期待していますか。横山さんのように著作権絡みのお仕事をされていたほうが良いのか、お仕事とは関わりなく、違う観点で調査していただける方が良いのかなどお聞かせいただけますか。
清水:若めの人で現場で仕事をされてる方が入ってくれるといいのかなっていうところですね。
横山:知識ゼロだとなかなか厳しいんじゃないのかなという気はしますけど……。
――それこそ最初の入門セミナーをまず受けていただいて。
横山:ええ、それはそれでいいとは思います(笑)
清水:委員会に入るとどうしても毎年セミナーを聞かなければいけないから、どんどん知識は深まります(笑)。そういうメリットはあります。
横山:セミナーの前段階の打ち合わせで弁護士の先生方と色々話したりして、なかなか刺激的だった覚えがあるので、そういった経験が出来るということもメリットとしてあるんじゃないかなと思います。
――出版社の方が多いと思いますが、他にも著作権に関わる業種であれば、というところでしょうか。
清水:JEPAの会員になっている会社などは、かなりそういうことを意識されてるところが多いですね。JEPAとは全然別の場でメーカーや結構な大会社の方と話すことがありますが、著作権のことなどまるっきり考えてないことがあります。
――これからは毎年色々と変化することも多い著作権について、一緒に勉強していっていただけるような方が良いのかなと。
横山:是非。そういう方を募集しております。
――著作権委員会について色々とお伺いすることができました。委員長の清水さん、委員の横山さんありがとうございました。
JEPAへの入会・委員会のへの参加を検討されている方は、下記よりご連絡いただければ事務局よりご連絡を差し上げます。
お問合せフォーム:https://www.jepa.or.jp/contact -- インタビュアー JEPA広報委員会・三田桂子(萩原印刷株式会社) 編集 JEPA広報委員会・上田平結城(株式会社パピレス) ※この文章はインタビュー音声を元にChatGPTで文字起こしされています。 Glarity-Summary for Google/YouTube (ChatGPT)