32 電子出版関連の標準化動向とJEPAの活動 (下川和男)

 電子出版関連の標準化には「文字コード」「描画エンジン(ブラウザ)」「EPUB日本語組版」、教育系の「IMS GLC(EDUPUB)」などがあります。これらについてJEPAの関わりと共に解説します。

■文字コード
 文字コードと文字フォントについては、JEPA初代会長の前田完治氏(三修社社長、書協副会長)が出版人の立場でUnicodeに興味を持たれ、1996年から3年間フランクフルト・ブックフェアで「World Font CD」を配布し、普及を支援しました。
 欧文、漢字、アラビア文字、ハングルなど世界の文字を含んだ符号化集合であるUnicodeは、1993年にISO/IEC 10646として国際標準となり、今では世界中のOSやアプリで採用されています。
 2011年には、スマホの台頭で普及期となっていたAndroidに、Googleが標準フォントを提供せず、端末メーカー各社の独自フォントで混乱していることを、Google本社にJEPA関戸雅男会長名で要望を出し、是正してもらいました。
 2011年にスタートした情報処理推進機構(IPA)の文字情報基盤プロジェクトと、それを民間で支援する文字情報技術促進協議会(CITPC)に協力し、JEPAで数回のセミナーを開催しました。文字情報基盤はUnicode内の日本語11,233字に、新たに6万文字を加え、人名、地名などの外字をなくすプロジェクトです。「MJ明朝」というフォントがIPAのホームページから無償で入手でき、WindowsとMacOSで表示、検索が可能です。

■描画エンジン
 Google Chrome、Apple Safari、Microsoft IEとEdge、Mozilla Firefoxなどのブラウザは、それぞれHTMLを解釈し表示する描画エンジン(rendering engine)を内蔵しています。ChromeはBlink、SafariはWebKit、IEはTrident(MSHTML)、EdgeはEdgeHTML、FirefoxはGeckoという名称で、Microsoft以外はオープンソースとして公開されています。
 2008年にWeb標準の策定母体であるW3C(World Wide Web Consortium)から草案が公開された「HTML5」は各社がこぞって採用し、Microsoftは独自拡張がたくさん入っていたIEから、Edgeに名称を変更しHTML5準拠を鮮明にしました。
 W3Cは「HTML5はすべてのインターネットにつながるデバイスのプラットフォーム」と表明しており、Android、iOS、MacOS、Windowsなど各社のオペレーティングシステムより上位の、ブラウザでのプラットフォーム標準化が進んでいます。

W3C Jeff Jaffe CEOのHTML5プレゼン資料から

■EPUB日本語組版
 2010年4月1日、JEPAは「Minimal Requirements on EPUB for Japanese Text Layout(EPUB日本語組版の最低要求項目)」を発表しました。日付こそ胡散臭いものでしたが、欧米での電子出版共通フォーマットEPUB 2に縦書き、ルビ、禁則などを加える要求仕様を英文でネットに公開しました。これを、EPUB国際標準化団体であるIDPFがすぐにEPUB WGの綱領から参照し、世界的に注目を集めました。
 この要求項目はその仕様については、Web技術全体の標準化団体であるW3Cが公開している「JLreq(日本語組版の要件)」という印刷すると400頁になる膨大な仕様書を参照しています。小林敏氏(元日本エディタースクール)、小林龍生氏(元Unicode.org理事、JEPAフェロー)、Richard Ishida 氏(W3C)らによるボランティアでの大事業により、英文で日本語組版を説明することができました。
 要求項目の策定を主導した村田真氏(JEPA CTO)は、IDPFからEGLS(Enhanced Global Language Support)つまり日本語のみならず、EPUB 2全体の多言語化の責任者に任命され活動した結果、2011年10月、日本語組版を含む「EPUB 3」がIDPFから発表されました。
 このプロジェクトは総務省情報流通振興課の2010年度「電子出版環境整備事業」10案件中の「EPUB 日本語拡張仕様策定」として採択され、国の支援を得てイースト社、JEPA、アンテナハウス社が推進しました。
 EPUB 3の実体はHTML5とCSS3なので、このプロジェクトによりブラウザでの日本語組版が実現し、首相を本部長とするIT戦略本部の2011年「今年の10大成果」に入りました。

2011年1月ブラウザでの縦書き表示が実現

 日本の電子出版フォーマットが国際標準のEPUB 3で統一され、出版社を中心とする日本電子書籍出版社協会からEPUB制作ガイドが公開されました。
 EPUBの利点は、それまで特定の企業と結びついていたデータ形式が自立し、コンテンツ制作と電子書店ビジネスが分離できたことです。だれでも簡単にEPUBを作ることができるようになり、2013年に登場した無料EPUB生成サービス「でんでんコンバーター」では、18万回EPUBを自動生成しています。Amazon Kindleも入稿にはEPUBを推奨してお入り、Apple iBooks、紀伊國屋書店Kinoppy、eBookJapan、BookLive、BOOK ☆ WALKERなどほぼすべての電子書店でEPUB入稿と配信が行え、電子書籍コンテンツの増加と普及に大きく貢献しています。

■IMS GLC(EDUPUB)
 EPUBの教育分野での普及を目的としてEDUPUBというプロジェクトが2013年10月、IDPFと教育系の標準化を推進するIMS GLC(Instructional Management Systems Global Learning Consortium)合同でスタートしました。2014年9月、3日間の国際会議をJEPAが日本で主催し、IDPF、IMSを使った教育ICTの標準化についてアジアからの参加者を含め議論しました。
 2016年5月IDPFのW3Cへの合流が発表され、EDUPUBという言葉はあまり使われなくなりましたが、IMS GLCでのCaliper(学習履歴)、LTI(アプリ間連携)、QTI(問題交換形式)、OneRoster(校務、教務連携)などの標準化はスピード感を持って進められています。
 2016年6月には、日本IMS協会というIMS標準を推進する団体がJEPAも参加して設立されました。IMS標準には、Interoperabilityつまり相互運用性に関するものが多く、日本の教育ICTは、様々な企業が様々なサービスを個別に提供している状態なので、IMS標準の重要性が増しています。

◎下川和男(しもかわかずお)JEPA副会長。イーストからJEPAに参加。