■iモードスタートへ向けて
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下DoCoMo)のiモードケータイが発売されたのは1999年の2月でした。ついこの間のような気がしますが、すでに丸9年以上が経過しています。
携帯電話の契約者数は2005年末で、約9,100万人、内DoCoMoのシェアーは前年より少し下がって55.7%、台数で5,060万台にのぼります。このうち通話に加えiモードなどインターネットサービスへの加入者は90%強といわれていますから、DoCoMoだけで4,560万人(台)以上になり、他社のインターネット対応機と共に日常生活に欠かせないメディアの1つになったことは、電車に乗って回りを見回しても実感します。
iモードケータイがスタートする1年ほど前、DoCoMoの松永真理氏(当時、ゲートウェイビジネス部企画室長)と同じ部署の夏野剛氏が、揃って三省堂に来社し、新しいiモードケータイの概要を説明して、新機能を使って是非スタート時から辞書を引けるようにしたいので、データを提供して欲しいとの要望がありました。
「話すケータイから使うケータイへ」というのが当時の新しいiモードケータイをアピールするDoCoMoのキャッチ・フレーズでした。
DoCoMoとしては、インターネットに接続して文字や画像が送受信できる新たな機能を生かすために、「iメニュー」というコンテンツ群を用意し、単に通話が出来るだけでない便利さを持たせたかったわけです。バンキング、カード、証券(モバイルトレード)、グルメ/レシピ、占い、ニュース/情報などが予定され、その中の「便利ツール」という中に辞書引き機能を持たせる計画でした。
交渉の結果、詰まってきた主な条件は次のようなものでした。
1. DoCoMoがユーザーに無料で提供するベーシックな辞書3点のデータ提供。
(DoCoMoは月々データ使用料を三省堂に支払う)
2. 三省堂がユーザーに有料で提供する辞書数点(当初大辞林など3点。合計月額50円)(料金は三省堂が自由に設定)
3. 2 の料金は、DoCoMoが月々の通話料に含めて回収。
4. 辞書のデータ加工や検索エンジンの作成、辞書のデータを収容するサーバーの費用は三省堂負担。
5. DoCoMoはアクセス・ログを三省堂に提供、など。
iモードケータイがどのように売れてゆくか、双方ともはっきりした見通しがつかず、これらの料金をどう決めたものか、費用をどう持ち合ったものか双方かなり迷いましたが、三省堂としては次のような要素も考慮に入れつつ、データを提供することで合意しました。
紙の本の販売と違い、在庫が不要、販売・宣伝費も不要、三省堂から見て課金が簡単、訂正・改訂が簡単、どのような語が引かれているかなどログが極めて有用、などです。
勿論、自社を含め紙の辞書の売れ行きが鈍るなどの懸念はなくはありませんでしたが、iモードケータイの売れ行きがはっきり見えなかったこともあり、この場合、この点はあまり心配しませんでした。
■発売の年は280万台
このような経過を経て、98年9月に6点の辞書のデータ加工を始め、99年2月のスタートになんとか間に合わせました。スタート時には、辞書が引ける「便利ツール」を含め上記のような13分野、84社が最初のiメニューから参加しました。
一方、ハードの方はスタート時は富士通機、三菱機、日本電気機、2か月程遅れてパナソニック機が発売され、99年2~12月の間の販売台数計約280万台、28万台/月、というようなテンポで売れ始め、さまざまな経過を経て、05年末の上記の数字まで売り上げを伸ばしました。この間、iメニューの品揃えはさまざまな分野で飛躍的に拡大し、また「着メロ」や“たれパンダ”などの「待ち受け画面」等がiモードケータイ上でビジネスになることが分かるなど、それまでは考えられもしなかった新たなコンテンツ・ビジネスの可能性も見え始めました。
その後、iメニューの中で辞書データを有料で提供する出版社も相次ぎました。またこんな数字もわかってしまいました。スタート後1年間で見て、iモード契約者で有料の辞書データ利用を申し込んだユーザーの割合は約1.2%(約3万人)。この割合が低いか高いか、さまざまなコンテンツの中で、辞書データのそれなりの位置を示した数字として、印象に残っています。利用できる辞書データが増えてきたことなどもあり、今日ではこの数字もかなり変わってきていると思いますが……。
◎山田 蕃(やまだばん)三省堂からJEPAに参加