■文庫総合サイトへの道
事の起こりは、ある著者からの問い合わせ電話からでした。
「出版社からではないのだが、光文社で刊行している自分の著書をデジタル化してオンライン販売したい、といってきているのだがOK してもよいものだろうか……」ということでした。
よくよく訊いてみると、その契約内容は配信にとどまらず、FD やCD 等のパッケージ・メディアを含むすべてのデジタル化権、しかも独占契約であると……。
これは大変なことになっているぞ。これまで著者をサポートして、編集者がどれほどの思いで作品をつくってきたか。その成果を出版社を素通りしてサラッと持っていかれて独占される。そんな理不尽な話はない。
「先生、うちでやりますから……」
1996 年春のことでした。
当時、私は主に書籍の制作進行と著作・出版権管理を担当する出版総務部部長の立場にありましたが、部内にデジタル制作室を新規に立ち上げての業務開始でした。
こうして1997 年12 月27 日、光文社電子書店をオープンしました。
しかし、そこで考えたことは「これは自社だけの問題ではすまない。他社はどうなっているのだろう」ということでした。二、三の同業の社にあたってみました。すると、「うちの刊行物もすでにやられている。これは問題だ。多くの社にこの問題を提起すべきだ」ということになりました。
そこで、出版各社の著作・出版権担当者の情報交換の集いである「出版・著作権等管理販売研究会」でこの実情を報告したのが1998 年初夏のことでした。
まず、講談社、徳間書店、文藝春秋が立ち上がりました。しかし「各社バラバラで行動しても業界のためにならない」となり、この4 社が発起人になり、主に文芸書を出版している各社に声をかけました。角川書店、集英社、新潮社も加わることになり、仮称・電子書籍出版販売協会設立準備会をもったのが1999 年秋。その後、中央公論(当時)が加わり8 社になり、電子文庫パブリの運営母体となる「電子文庫出版社会」(会長 矢島介光文社代表取締役副社長)第一回理事会が開催されたのが2000 年1 月でした。
「本会は、出版社の持つ権利の保護と著作権者の権利保護を前提として、電子出版の健全な発達と市場の拡大を図ることにより、その使命の達成をもって文化の向上と出版界および社会の発展に寄与することを目的とする。」(電子文庫出版社会規約より)
当初は各社がそれぞれ独自に電子書店を立ち上げ、そのポータルサイトを「電子文庫出版社会」がつくる(当時これをパルコ方式といっていた)というものでした。しかし、読者が各社の作品を別々のレジで会計をするのは不便だ、ということになり、どこからでも同一レジで会計できる総合販売サイト(こちらはデパート方式といっていた)の構築をめざすことになりました。
■多くの電子書籍サイト発足の契機に
「電子文庫出版社会」は各社担当役員で構成する最高意志決定機関である理事会と、担当部署の責任者で構成する幹事会、それに各社担当者が参加する各部会(技術、経理、広報、法務等)の実働部隊で構成されます。
「電子文庫出版社会」の規約、電子文庫パブリの運営規則等を幹事会で検討し、法務部会が成文化、売上や経費の自社での扱いをどうするのかを経理部会で検討、とくに大変だったのが技術部会でした。サイトの構築を各社の若手担当者が日夜集まり検討、作成していきました。最後は徹夜ということも。
2000 年春のオープンを目指していましたが、いろいろ欲が出て、九月開店ということになりました。さてそれからが大変。出版社が紙の本ではなく、デジタル配信をするということで、各方面へご挨拶に伺い、ご理解をいただかなくてはなりません。
日本書店商業組合連合会、日本文藝家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブ等々。特に日本推理作家協会の皆様は関心が高く、公式、非公式を合わせ何度も会合をもたせていただきました。思い出深いのは、講談社で行われたお話し合いの席に理事長の北方謙三先生はじめ多くの理事の方にお集まりいただき、お弁当までご馳走になったことです。あの宮部みゆき先生にお弁当を配っていただき、お茶まで入れていただいたことに、大変恐縮したことが思い起こされます。
ともあれ2000 年8 月31 日、講談社講堂にて電子文庫パブリ発表記者会見を開催、百数十名の参加を得て、新聞、テレビ等で報道された翌日、9 月1 日正午、オープンの運びとなりました。デパート方式の一階部分、参加八社の文芸書を中心にしたテキストベースの一般書のみを取り扱う電子書籍モールでした。
現在は参加出版社も13 社に増え(学習研究社、小学館、祥伝社、筑摩書房、双葉社、が新規に参加)、ケータイサイトにも展開しています。さらにコミック売り場、写真集売り場等を扱う二階、三階の増築を視野に入れた、総合電子書籍モールを考えています。電子文庫パブリ発足を契機に、多くの電子書籍サイトが生まれ、また、紙の本同様に電子書籍の取次業も生まれました。
「やらなきゃ、やられる」でスタートした出版社の電子書籍配信は、いま、新たな書籍媒体になろうとしています。今後は、会の趣旨に賛同していただける出版社の参加を増やし、健全な電子書籍配信のあり方に、積極的に寄与していきたいと考えております。
◎細島三喜(ほそじまみつよし)光文社から電子文庫出版社会の設立に関わり代表幹事を務めた