日本電子出版協会は、電子出版文化の構築を通じて社会の健全な発展に寄与することを理念に、出版界を中心に関係各方面はじめ幅広い産業分野からの参加を得て、1986 年に創設されました。以来、協会はその理念の実現に向け、電子出版を支えるハード・ソフト両面にわたる技術の開発、コンテンツの創出、流通組織の整備、著作権にかかわる諸問題の解決など、さまざまな課題に実践的研究を中心に取り組んでまいりました。
このたび創設から20 余年を経て、これまでの活動のひと区切りとして『JEPA のあゆみ』を刊行する運びとなりました。本書では、日本の電子出版の歴史を、協会の創設から現在に至る活動を軸にできるだけ詳細に記録し、その発展の道筋を通観することができるようにしました。また、電子出版の黎明期にあって、それぞれ勇敢な試みに携わった方々に寄稿を仰ぎ、当時を振り返えり、その期するところ、実現に向かっての課題の克服、もたらされた結果、それに対する評価などについて綴っていただきました。
協会設立の趣意書をみると、従来の印刷書籍の市場への影響を危惧しつつも、発展する電子技術に裏付けられた新しい出版メディアとしての電子出版に期待を込めて正面から取り組もうとする創設メンバーの決意を読み取ることができます。電子出版を取り巻く今日の環境は、新しい電子デバイスの登場、インターネットの日常生活への浸透、携帯電話の大規模な普及、それらにともなって多くの人々が情報リテラシーを深化させるようになったこと、そして環境問題の深刻化など、多くの点で協会設立時とは大きく様相を異にしています。本書が、単なる過去の記録にとどまることなく、出版の将来を考えるうえで有益な資料となることを願っています。
書籍の売上げ減が続く近年の状況のもとで、日本電子出版協会に課せられた使命は以前にもまして大きいとの認識に立って、わたしたちはさらに実りある活動を続けてまいる所存です。本書を手にされた皆様の積極的なご参加とご支援を切にお願いするしだいです。
2008 年9 月
関戸雅男
◎関戸雅男(せきどまさお)初版刊行時の会長、2006 年から2016 年まで会長を務める。研究社