Adobeとは
PhotoshopやInDesignなどのアプリケーションを開発・販売するソフトウェアメーカ。現在のDTPやWebデザインにおいて欠かすことのできない企業の1つ。PDFは、同社が開発した、テキストや画像を含む電子文書を扱う技術、およびファイル形式のことである。
もっと詳しく!
デジタルデザインの黎明期から存在し続けるクリエイティブ企業
今から40年前の1982年12月に設立した、アメリカのソフトウェア企業。コンピュータ産業の黎明期を支えたカリフォルニアのパロアルト研究所から独立した、John Warnock・Charles M. Geschkeが共同で起業し生まれた。
その後、印刷技術として普及したPostScript、さらにPostScript技術と、AppleのコンピュータMacintosh、レーザープリンタLaserWriterを活用したデジタル印刷技術で印刷産業へ参入し注目を集めた。
その後、Illustratorを皮切りに、PhotoShopの現在もデジタルデザイン分野の中心ツールであるデザインおよび写真加工ツールを発表し、出版・新聞業界で導入が進み始めていたDTPの普及・促進に大きな影響を与えた。その他、マルチメディア技術QuickTimeを利用した動画編集ソフトAdobe Premiere、さらに、デジタルデータフォーマットのスタンダードとなったPDFの開発、発表により、コンテンツのデジタル化を牽引する企業として、世界に名を馳せることになる。
その後、さまざまな企業買収とともに、Adobeの影響力は、デジタルデザイン領域から、Web/オンラインでのデジタルクリエイティブ領域へと広がり、今に至る。
現在は、2016年に発表した独自のAI技術「Adobe Sensei」を利用したクリエイティブデザインに注力し、AIを活用したデジタルデザインの新たな領域拡張に注目が集まる。
ここ日本に関しては、2022年日本法人設立から30周年を迎えた。
デジタル時代のデザインを支える縁の下の力持ち
Adobeと言えば、さまざまなデジタルデザインツールの開発、提供を行ってきたリーディング企業である。とくにDTP市場において、その地位を確固たるものにしたのがInDesignのリリースである。
前述のとおり、Adobe誕生後、とくに1990年代は新聞・出版関係の分野でのデジタル化、いわゆるDTPの普及が一気に加速した。この時期、組版(レイアウト)ツールとして主力だったのは、実はAdobeのものではなく、Quark社のQuarkXPressで、多くの商業紙・商業誌で使用されていた。
しかし、2000年に入り、その状況が変わり始めた。そのきっかけとなったのが、2001年6月にAppleがリリースした新しいUNIXベースのOS、Mac OS X(2022年8月現在のmacOS)の登場だ。
すでにDTPのエコシステムにおいて、Appleが提供するハードウェア、ソフトウェアは欠かすことができない存在であり、このMac OS Xのリリースも例外ではなかった。しかし、Quark社はMac OS Xへの対応が遅れ、このタイミングで、DTPレイアウトツールの主役に躍り出たのが、Adobeが1999年8月に最初の版をリリースし、Mac OS X、さらに文字組みには必須のフォントとして、OpenTypeフォントにも完全対応したInDesignだった。
加えて、すでにデファクトスタンダードとなっていた、PhotoShopやIllustratorとの連携もシームレスに行えていたことで、1990年代のDTPツールのシェアは一転し、一気にAdobeが独占できる状況となった。
補足として、InDesign(さらにはPageMaker)は、もともとAdobeのツールではなく、Aldus社のプロダクトだったものが、AdobeとAldusの合併により、Adobeからリリースされ、開発が続けられている。
このように、DTPの黎明期、そして、21世紀に入り20年が経過した今、DTPを中心としたデジタルデザインを支えているのがAdobeであると言っても過言ではない。
電子出版におけるAdobeの存在は
2010年代に入り一般化し、今では日常生活でも多くのユーザが利用する電子書籍・電子雑誌。この領域でも、Adobeの存在は非常に大きい。
ただ、それは標準フォーマットとなったEPUBではなく、Adobeが開発をしたPDFにおいて、だ。とくに、ここ日本で、筆者が属する専門書・実用書領域ではInDesignベースで制作したレイアウトデータ(印刷前の出版物データ)を、EPUB、中でもリフロー型EPUBへ変換するのが難しく、InDesignの標準生成機能では、意図通りのビジュアルデザインを再現できないことが多い。
また、電子コミックを始め、固定型EPUBが普及している状況においては、InDesignが実現する多彩なレイアウトを、リフロー型EPUBで実現するのが難しい(これは制作ツールだけではなく、EPUBを表示するリーダー側にも問題がある)ため、EPUB制作ツールとしてのInDesignは、そこまで浸透していない、と筆者は感じる。
その他、Amazon KindleやApple Booksなど、プラットフォーマが提供するEPUBリーダの普及スピードが早かったこともあり、Adobeが提供するEPUBリーダーである「Adobe Digital Editions」は、2022年8月現在、大きなシェアは獲得できていないことも添えておく。
AIを活用した次のフェーズのクリエイティブ時代に向けて
最後に、未来のAdobeの観点で、注目したいテクノロジーを紹介する。
デジタルデザイン領域において、つねに業界をリードしてきたAdobeは、2009年に、当時アクセス解析ツールの主力企業の1つだったオムニチュアを買収し、デザイン領域を拡張する動きを見せた。
また、パッケージ販売からクラウドへ移行するIT分野において、Adobeもツールの提供形態をクラウド(サブスクリプション)型へ移行、2012年にAdobe Creative Cloudという名称で、各ツールを利用者の目的に応じて月額課金で提供する提供形態へ変更した。
こうした動きは、個人向け・法人向け、さまざなビジネス拡大の狙いがあったわけだが、それぞれで培われたデータを活用しながら、2010年前後から実用化される時代が来ることが予想されていたAIの研究・開発を進めていた。
そして、2016年、Adobe独自のAI・機械学習テクノロジーであるAdobe Senseiを発表、今では、同社の各種主力ツールにAdobe Senseiを実装し、Adobeが提供するデザインプラットフォーム(Adobe Creative Cloud)で、人間の発想だけではない、コンピュータ(AI)の力を最大限活用できる、デジタルプラットフォーム企業へと進化を続けている。