写り込みとは
写真撮影や録音、録画、動画ライブ配信やスクリーンショット、CG化などの際に、目的の対象物に付随して他者の著作物が入り込んだ場合、これを「写り込み」と言う。令和2年(2020年)の著作権法改正により、「写り込み」に係る権利制限規定と呼ばれている規定の適用範囲が拡充され、一定の要件のもとであれば「写り込み」は著作権侵害とならない範囲が拡大された。該当する著作権法の条文は、著作権法第三十条の二(付随対象著作物の利用)となる。
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経緯
著作権における「写り込み」についての権利制限規定は、平成24年(2012年)の著作権法改正により創設された。それまでの著作権法では、例えば、写真やビデオ撮影の際に、背景に何らかのキャラクターなどの著作物が写り込んでしまった場合など、著作権者の利益を不当に害する利用ではなくとも著作権の侵害とされるおそれがあったが、一定の要件を満たせば著作権侵害にならないことを明確にした規定(権利制限規定)が設けられることとなった。
ただし、この規定については、当時の社会環境において立法の必要性が高かった部分に限定した規定となっていたため、平成24年の改正の際には、条文(著作権法第三十条の二)からだけでは具体的な内容や、日常的な場面での適用判断の分かりにくさなどが関係者からも指摘されていた。
併せて、近年のスマホやタブレット端末等の急速な普及と利用範囲の拡大、動画投稿・配信などユーザー生成コンテンツのプラットフォームの発達、要件緩和による社会的に有意義なサービスの可能性など、社会・技術環境が大きく変化している中で、平成24改正の規定(以下、旧規定)では不都合が生じる場面が顕在化してきたことから、令和2年(2020年)の著作権法改正で、権利制限規定が拡大され著作権の侵害とならずに利用可能な範囲が広がることとなった。
令和2年改正の主なポイント
平成24改正との対比での令和2年改正の主なポイントは以下の通り。
・旧規定では、対象となる行為が、写真撮影・録音・録画を行う際の写り込みに限定されていたが、これが複製・(複製を伴わない)伝達行為全般に拡大された。これにより、スクリーンショットやライブ配信、CG化なども広く権利制限の対象に含まれることとなった。
・旧規定では、対象となる行為が著作物の創作という創作性の認められる場面に限定されていたが、この制限が撤廃され無制限となった。これにより、固定カメラでの撮影やライブ配信、スクリーンショットなど創造性が認められない場面での写り込みも権利制限の対象に含まれることとなった。
・旧規定では、メインとなる被写体から分離困難な著作物の写り込みのみが対象とされていたが、この「分離困難性」という外形的・画一的な要件が改められ、「正当な範囲」であれば、メインの被写体に付随する著作物で分離困難でないものも対象とされることとなった(例:子供にキャラクターのぬいぐるみを抱かせて撮影する場合など)。
*「正当な範囲」は、著作物の濫用的な利用や権利者の市場を害するような行為(例:経済的利益を得るためにあえて著作物を入れ込む等)を防止するため、付随著作物の利用による利益目的の有無等の様々な考慮要素に照らして評価される。
令和2年の改正により、社会・技術環境の変化に応じた形で著作物利用の柔軟性が高められたが、「写り込み」は、写り込んだ著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生じる利用であることを前提として、著作権者に与える不利益が特段ないまたは軽微であることを理由に、著作権を侵害しないものと位置付けられている。したがって、写り込んだ著作物の利用は、あくまで著作権者の利益を不当に害しない範囲で認められるという点に変わりはない。
なお、出版実務の場面での画像利用にあたっては、上記著作権の観点以外にも写り込んだ人物の肖像権やパブリシティ権にも注意を払う必要がある。