EPUBとは
EPUBとは、電子書籍のファイルフォーマット規格の1つである。IDPF(International Digital Publishing Forum:国際電子出版フォーラム)と言う電子出版・電子書籍に関わる国際的な標準化団体が仕様を策定し、普及促進をしているもので、現在の電子出版業界で最も普及している規格の1つと言える。標準化団体が仕様策定を進めていることもあり、多くの電子書店やプラットフォーマーの採用が進んでいる。一番の特徴は(X)HTMLとCSSを利用したデータ制作が行えること。これにより、これまでWeb制作に関わっていたエンジニア・デザイナーが電子出版業界に足を踏み入れやすくなったと言える。ここ日本では、2011年のEPUB3リリース以降、浸透し始めた。
もっと詳しく!
EPUBの歴史
続いて、EPUBの歴史について紹介する。
誕生の背景
EPUBの一番最初のリリースは2007年9月である。この当時、基礎技術であるHTMLのバージョンは4.0、CSSのバージョンは2.1が最新バージョンだった。その後、2010年6月に、現在も使用されているEPUB2.01がドラフトとして公開された。
日本におけるEPUBの存在
日本におけるEPUBは、先ほども述べたように3.0のリリースのタイミングから普及が始まった。EPUB3.0(別項参照)の特徴に、縦書やルビといった日本語組版の特徴が取り込まれたことが大きな理由の1つで、これにより「日本語の書籍をEPUBで電子化する」という動きが活性化した。それまで日本では、Voyagerが開発した.bookやシャープが開発したXMDFといった電子書籍フォーマットが主流だったが、EPUB3.0の登場、また、2012年に相次いで日本にオープンした楽天Kobo、Google Playブックス、Amazon Kindleストアといった電子書店が、EPUB3.0に準拠(あるいはベースに)したリーダーを採用したことで、これまでの.book/XMDFからEPUBへの流れが加速した。
それでも、従来の制作フローを手放すことが難しい状況から、.bookやXMDFをEPUBに変換するツールが開発されたり、日本の組版事情をふまえた「電書協フォーマット」と呼ばれる、日本電子書籍出版社協会が仕様策定したEPUB3.0も登場している。
固定型とリフロー型
EPUBはその特徴から大きく2つの種類が存在する。1つは「固定型EPUB」、もう1つは「リフロー型EPUB」である。なお、固定型EPUBは「フィックス型EPUB」とも呼ばれる。
固定型EPUB
固定型EPUBとは、その名の通りレイアウトが「固定」されているEPUBデータである。とくに漫画(コミック)や雑誌など、レイアウトに特徴があったり工夫がされているコンテンツで採用される形式で、紙のレイアウトとまったく同じ状態でEPUB化できる。最近の書籍や雑誌はInDesignと呼ばれるDTPツールで制作されることが多く、その場合であればPDFを書き出すことで、手軽に固定型EPUBを制作できるといった特徴がある。
ただし、固定型EPUBにするとそのままでは文字検索やリンク、文字ハイライトといった、電子データが持つべき特徴が失われるため 註、「紙の本をそのままのレイアウトで電子化したい」といったケースや、「伝えたい情報に視覚的要素を盛り込みたい」といったケース以外では、制作コストが低いからといって、あまり採用しないほうが良いと筆者は考える。
註:制作方法によっては、文字検索やリンクができる固定型EPUBも作ることが可能。
リフロー型EPUB
リフロー型EPUBとは、「リフロー(再レイアウト)が行える」EPUBデータである。この形式で制作した電子書籍や電子雑誌は、使用するリーダーの設定に合わせて、文字の大きさや行間を変更することが可能となる。また、作り方によっては縦組み・横組みを変えることもできる。
リフロー型EPUBは電子書籍・雑誌の特徴を最大限に活かせる形式と筆者は考えるが、一方で、後述のようにリーダーごとに見え方が異なる場合や、そもそも見ることができないといったリスクがある。さらに、とくに日本の書籍や雑誌のように紙での組版が多様化・複雑化したコンテンツの場合、また構造化があまり意識されずにDTPツールが使われているような場合、リフロー型EPUBを制作するコストが大きく跳ね上がるケースがある。
こうした問題、とくにコストについては、将来的にはあらかじめ紙と電子の両方を意識した編集・デザインフローを確立することで解決できるだろう。
"標準規格"「EPUB」という言葉にダマされるな?!~EPUBのメリット・デメリット
続いて、筆者個人が感じる、2015年時点における「標準規格」であるEPUBのメリット・デメリットについてまとめる。
EPUBのメリット
まず、メリットの部分。これは何といっても標準規格であること。これにより、誰もが自由に、そして、大多数の読者に向けて電子書籍を制作できるようになった。最新の3.0では日本の事情がかなり取り入れられており、これから日本の電子書籍においてもますます普及していくことが見込まれている。
また、基礎技術にWebの技術である(X)HTMLやCSSを採用していることで、これまでは紙の組版や紙の編集に関わる人が中心となっていた出版・書籍の世界に、Webに関わる人たちが参加しやすくなった点もメリットだと考えられる。いわゆるグラフィックデザインだけではなく、Webデザインの特性も利用した制作が行えるようになるからだ。その結果、より多くの編集者・デザイナー、さらにWebエンジニアやWebマーケターなどが参入しやすくなり、業界全体の活性化が見込めると筆者は考えている。
EPUBのデメリット(日本の場合)
国際規格ではあるものの、もともとは英語をはじめとしたシングルバイトを対象とした技術であるため、日本語や日本語組版を、EPUBを使って表現する際に障壁が生まれやすくなる(EPUB3.0以降、日本語などマルチバイトへの対応が進んではいる)。また、日本に限らず、世界各国で「EPUB準拠」とうたったEPUBリーダーが数多く登場する一方で、EPUBそのものがIDPFが策定している標準規格であるにもかかわらず、タグをきちんと読み込めない・あるいはエラーが起きるといったリーダーが数多くするのも事実である。この状況は、数年前のWebブラウザと同じで、使用しているリーダーによって見え方が異なるだけではなく、そもそも閲覧・読書ができないといった問題があるのは、2015年時点のEPUBのデメリットと言えるだろう。ただしこれは時間とともに解決していくのではと期待している。
電子書籍・雑誌制作に関わる方へ
最後に、電子出版に約5年ほど関わった筆者が、この先、電子書籍・雑誌制作に関わる方に伝えたいことをお届けする。
EPUBによる電子書籍・雑誌制作は、従来の紙の書籍・雑誌の制作と大きく違う点がある。それは、紙のように読み手が必ず同じ状況(判型や文字サイズ)で読むわけではなく、たとえばスマートフォンやPCといった使用する端末の違い、また、使用するリーダーによって文字サイズや行間が異なるケースが多々あるということだ。つまり、EPUB(おもにリフロー型)で作成した電子書籍・雑誌は、創り手の見せたいように見られるものではなく、読み手の環境によって見え方が異なってしまう。まずこの違いがあることを認識することが重要である。
誤解を恐れずに言えば、紙のように(表現スペースに)制約のあるコンテンツ以上に、「最も伝えたい情報は何か」「そもそもどういった情報構造を作るべきか」を考えなければならない。さらに、自分が良いと思った見た目が必ずしも再現できるわけではないため、必要のない主観(デザインや表現)やこだわりは取り払った制作をしていくことが求められていくだろう。
もう1点、EPUBでデータを制作するときには、情報構造をきちんとつくることに加えて、IDPFで策定されている仕様に則ることを再優先に考えてもらいたい。仮に、前述のように仕様通りに制作したデータが、特定のリーダーでは閲覧できなかった場合、創り手がリーダーに合わせるのではなく、リーダーの開発元にその状況を伝え、リーダーの改善を促すことが、EPUBのさらなる普及につながると考えている。