読書バリアフリー法とは
2019年6月に制定、施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」の略称。アクセシブルな書籍・電子書籍(視覚障害者等が自ら読める方式で作られた書籍・電子書籍)の「借りる権利」に加え「買う自由」をも担保することを目的としている。本法の成立で出版業界はこれまでにまして、いよいよ、アクセシビリティに配慮した出版活動が求められることとなった。
視覚障害者等=視覚障害、発達障害、肢体不自由等の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者
アクセシブルな電子書籍=デイジー図書・音声読上げ対応の電子書籍・オーディオブック等
アクセシブルな書籍=点字図書・拡大図書等
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(法文の詳細は下記URLから確認できる
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=501AC0100000049 )
読書バリアフリー法の目的と理念
目的(第1条)
「視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進し、もって障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与すること」
理念(第3条)
・アクセシブルな電子書籍等の普及を図るとともに、電子書籍等以外の視覚障害者等が利用しやすい、アクセシブルな書籍も引き続き提供されること、
・アクセシブルな書籍及び電子書籍等の量的拡充と質の向上が図られること
・視覚障害者等の障害の種類及び程度に応じた配慮がなされること
読書バリアフリー実現へのポイント
イ.国と地方公共団体の責務を明らかにした(第4条から第8条)
国に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」策定を義務づけたうえで、他方、地方公共団体については、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画」策定を努力義務とした。
第6条では「政府は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない」とし、財政措置を明示し、施策の実効性を高めようとしている。
ロ.イの「計画」に盛り込むべき9つの基本的施策をあらかじめ示した(第9条から第17条)
この中にたとえば、「出版者から製作者に対するテキストデータ等の提供促進のための環境整備への支援」や、アクセシブルな電子書籍販売促進のため、「著作権者と出版者との契約に関する情報提供」、「技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進」、さらに「製作人材・図書館サービス人材の育成」などが盛り込まれている。
ハ.施策の効果的な推進を図るための協議の場を国に設置するとした(第18条)
「文部科学省、厚生労働省、経済産業省、総務省等の関係行政機関の職員、国会図書館、公立図書館、大学等の図書館、学校図書館、点字図書館、第十条第一号ネットワークの運営者、特定書籍・特定電子書籍等の製作者、出版者、視覚障害者等その他の関係者による協議の場を設ける」。
出版業界への影響と「アクセシブル・ブックス・サポートセンター」
読書バリアフリー法は出版者に対して何かを義務づける法律ではない。たとえばフランスにおいては著作権法が改正され(2006年)、出版社に対して、視覚障害者用の書籍作成のための電子データの提供が義務付けられたが、本法はそこまでの義務を課してはいない。
しかし、読書バリアフリー法に示された、上述の目的や基本理念の実現には、出版者によるアクセシブルな電子書籍やアクセシブルな書籍の、出版活動と販売促進が欠かせない。
とりわけ条文文言上は国や地方公共団体に対し「環境整備」を促す表現でありながら、これが間接的な出版社あての要求として読める箇所がふたつある。ひとつはは、第11条2項にアクセシブルな書籍等を制作する、登録された制作者に対して(著作権法施行令第2条第1項第2号)、出版者からテキストデータを提供すること。さらに、書籍を購入した視覚障害者等からの求めに応じて、該当書籍のテキストデータを提供すること(第12条)、である。
こういった「テキストデータ提供」についてはこれまでも、著作権法第37条が図書館に対し障害者サービス用資料を作成することを義務づけており、図書館関係団体は、出版社が図書館の活動を支援するためにテキストデータ等の提供に努めることが期待されていた。
他方「テキストデータ提供」について出版社側には、「出版物のテキストデータがアクセシビリティという目的以外に流出する」のではといった懸念や、「著作権者との契約を確認する必要がある」、「印刷所との関係によって当然ながら費用と手間がかかる」といった認識がある。
加えて、「買う自由」を具体的に担保するには、単に電子書籍がTTS対応のEPUBで作られているだけでは足りない。販売サイトやビューア機能にも影響は及ぶ。たとえば、
「音声購入」=音声読み上げ機能を用いて、ストアに行き本を購入することができる
「音声書棚」=音声読み上げ機能を用いて、書棚を開き、書籍を選択できる
といった機能を販売サイトが充足している必要がある。ちなみに販売サイトを含む、ホームページあるいはWebサイトのアクセシビリティについては、すでにJIS規格が、達成基準を制定している。
つまり「買う自由」を担保するには、「データ形式」「販売サイト」「ビューア」のすべてがアクセシブルであることが求められるのである。
以上のように、読書バリアフリーを実現する上で出版業界が抱える課題は多い。そこで出版業界からは「アクセシブル・ブックス・サポートセンター」(ABSC)の構想が提案され、2021年9月に同準備会が発足している。
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※読書バリアフリー法の目的や理念を出版社の企業活動に落とし込むには、「テキストデータ提供」の前提にある「テキストデータの抽出作業」が企業内ワークフローへきちんと位置づけられ、それが「出版のデジタルトランスフォーメーション」の一環だとの認識が経営者の当たり前になっていなければならない。そのためには必要な基礎知識への理解が不可欠だ。
必要な基礎知識とは「構造と表示の分離」「human readable と machine readable」といった概念などのこと。
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